【『最愛』感想 4話】想いの純度の高さが壊すもの・ネタバレあり
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2021年秋スタートのテレビドラマ『最愛』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
見ていたほとんどの人が、「えっ、そこまでばらしていいの?」と仰天したと思われる4話のラスト。本当に出し惜しみのないサスペンスだと驚いた。
SNSの考察が様々に繰り広げられるオリジナルのサスペンスドラマにおいて、視聴者の予想通りに舵を切り続けるというのは、逆に大胆かつ異端なのではないか。『最愛』(TBS金曜22時、主演・吉高由里子)を見ているとそう思う。
オリジナルサスペンスで視聴者が感じる「こんなに分かりやすいならミスリードではないか」を逆手に取り、4話までに初回で提示された二つの殺人の犯人はほぼ特定された。
主人公・真田梨央(吉高由里子)の弟で、行方不明になったままの朝宮優が今どうしているか、誰なのかも、予想通りに「情報屋」と呼ばれている青年(高橋文哉)だと判明した。
しかし、これだけ手の内を晒されても、見ている私たちのもやもやは晴れないし、近づけば近づくほど見えなくなる気分になる。
個人的にミステリーもので一番面白いのは、犯人は分かった、でも動機が分からないという空隙の瞬間ではないかと思う。そんな状態が延々と続いている気分なのである。
第2話のレビューでも書いたが、このドラマではやはり食事のシーンが多い。しかもそれぞれの生き方が滲むような描写になっている。
これだけは飲みたいな、これくらいは許されたいなと無意識に梨央がそっと握るビールのコップ。おそらくテイクアウトかコンビニか、単品の御飯ものを獣のように口をつけてがつがつと食べる弟の優の孤独な食事。
親子の食卓というよりは、上司と部下のミーティングのような梓(薬師丸ひろ子)と梨央の中華料理。ここで弁護士の加瀬(井浦新)がエビが苦手であること、梨央はそれを知っていることもわかる。梨央のニンジンと加瀬のエビは、互いの苦手なものを補い合い、守り合う関係だとうかがえる。
毎回入る冒頭のモノローグは、初回は宮崎大輝、2話は主人公の真田梨央。3話は加瀬賢一郎。
4話は意外なことに真田ウェルネス役員の後藤信介(及川光博)で、後藤の身の上が家族のない孤独なものであること、仕事が生きがいで、おそらく梓の父から引き立ててもらったのだろう、真田ウェルネスという会社が唯一の居場所であったということが明かされる。
この短いモノローグひとつで、主人公の梨央に執拗に敵対しつづける後藤という人物が個人として立体的に見えてくる。出世欲というよりは、自分を育ててくれた場所を守ろうとする彼なりの孤独な戦いなのだと、後藤が体温を持った人物になる。
このモノローグのバトンから予想されるのは、このドラマはそれぞれの『最愛』が複数ぶつかりあった結果、起こる齟齬(そご)や瓦解(がかい)を描き出すものではないか、ということだ。
自分の人生よりも、自分以外の誰かや組織を幸せの評価軸にしている人間たちが、その最愛のために他人の最愛を損ねてしまう物語。動機が我欲でない分、迷いのなさがやるせない。
どの回にもセリフ・劇伴・演出、全てがそろった映像美あふれる名場面があるが、今回は個人的には二つ。
信号待ちの間だけひっそりと寄り添った大輝と梨央が、信号が変わって何事もないように歩き出す場面。
どちらも現在の人間関係の中で、過去に互いがどんな存在であったのかは隠し続けている。意図的に隠すということが、それぞれに思い出に昇華しきれない生きた感情を仄めかしているように思う。
そしてもう一つは、閉まる踏切を間に向かい合う大輝と優、「逃げたってなんも変わんないぞ!」と激昂する大輝相手に踏切警報音とともに振り向く優を演じる高橋文哉の表情は、電車が過ぎる瞬間の残像と相まって、鳥肌ものに美しかった。
横断歩道と踏切。止められる時間と遮る時間。ありふれた街の風景の中で描かれる、胸締め付けられる対の名場面である。
これまでに起きた殺人の内容は明らかになりつつも、まだ結ばれていない「点」が幾つかある。旧札500万円の出所、真田ウェルネスを執拗に追うジャーナリストの動機。
再び殺人犯になってしまった弟に梨央はどう対峙するのか、その梨央に大輝と加瀬はどう対峙するのか。
『最愛』と名付けられた喪失の物語の全貌は、まだ半分も語られていない。
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最愛/TBS系で毎週金曜・夜10時~放送
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[文・構成/grape編集部]
かな
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