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【義母と娘のブルース 新年SP】愛と暮らしと笑うこと。全編に溢れる人の体温・ネタバレあり

By - かな  公開:  更新:

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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2022年1月に放送されたテレビドラマ『義母と娘のブルース』2022年謹賀新年スペシャル(TBS系)のレビューです。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

太鼓の音。そしてホラガイの音が鳴ると『亜希子さん』が帰ってきたと、わくわくする。

最初の連ドラは4年前の2018年、スペシャル版も2年前の2020年。でも法螺貝とカツカツ鳴るヒールの足音で、私たちはすぐに連ドラ版で泣き笑いしたあの頃に戻れる。

『義母と娘のブルース』(TBS系 主演・綾瀬はるか)略して『ぎぼむす』(以下、『ぎぼむす』)は、何年経ってもふらりとドアを開ければあの頃に戻れる、そんな地元の馴染みの店のようなドラマだ。

不治の病にかかったシングルファーザー・宮本良一(竹野内豊)が、まだ小学生の一人娘のみゆき(上白石萌歌)を託したのは、自身も孤独に生きてきた優秀なキャリアウーマン・亜希子(綾瀬はるか)だった。

偽装結婚を通じて当初はぎこちなかったものの、三人は徐々に家族としての絆を深めるが、治療の甲斐なく良一は他界してしまう。残された義母と娘は、周囲の支えを得て様々なトラブルやライフイベントを経験しながら懸命に生きていく。

確かに、『ぎぼむす』はこういう話なのだけれども、こうしてあらすじでまとめたところでこのドラマの楽しさは1%も伝わっていない気がする。

そもそもあらすじだけならヒューマンドラマの感動ものと思われがちだけれども、それも勿論あるのだけれども、第一に『ぎぼむす』は、笑えるのである。笑えるところも、泣けるところも、容赦なしの全力投球なのである。

『義母と娘のブルース』2022年謹賀新年SPで見た佐藤健の変化

今回の2022年謹賀新年スペシャルは、そんなぎぼむすの笑える要素をさらに大盛りにしたサービス満載のストーリーだった。

相変わらず万事ビジネスのスキルに引き寄せて考えたがる主人公の宮本亜希子の過剰すぎる堅物ぶりも楽しいが、何より今回は佐藤健演じるパン職人・麦田章の暴走するバカさ加減が実に愛おしかった。

佐藤健は、まるで魔物が化けるような鮮やかさで、どんな役にも作為の痕跡なく入り込んでしまう俳優だが、麦田章を演じるときには、あまりにも見事なその変化(へんげ)で、姿形は佐藤健でありながら全くときめきを呼ばない。

今回も功名心丸出しで突っ走り、ドラマ版から続いている亜希子へのわき目ふらぬ恋慕で余計な契約をしでかし、あまつさえ尻の穴をみゆきのボーイフレンドの大樹(井之脇海)に手伝わせて塞ぐという暴挙に出て、見ている私たちを酸欠寸前になるまで笑わせてくれるのだった。

だが、そんな行き当たりばったり、感情の赴くままに暴走する麦田章だからこそ、自分達の作るパンで搾取を企むハゲタカファンドの虚栄と真正面から戦えるのである。

※写真はイメージ

そのハゲタカファンドを率いるのは、亜希子の夫で幼い娘を残して先立った宮本良一と瓜二つの岩城良治(竹野内豊)で、その容姿に亜希子は動揺してしまう。

岩城自身も、根は善良でありながら悲しい挫折で利益至上主義に転向した過去があり、垣間見えるその二面性に亜希子はますます惹かれていく。

結果的に二人はすれ違い、恋に発展する前にそれは終わってしまうけれども、遊園地で買ってきた被り物をそれぞれで被るあたり、亜希子だけではなく良治の方も憎からず思っていたことが垣間見えて少し切なくなってしまう。

だが、ある程度の好意があったとしても、もう簡単に境界線を飛び越えられない。社会的な地位、仕事、今まで育んできた人間関係。それらを飛び越えてまでは行かない。そんな大人の恋のほろ苦さである。

※写真はイメージ

そして一度は岩城たちに乗っ取られたベーカリー麦田を救ったのは、合併相手の白百合製パンまでをも巻き込んだ製造ラインのボイコットという逆転の一本だった。

日常の中にあり、決して高価ではないけれども、温かいクラフトマンシップに溢れたパンを作る職人の誇りが、株価だけを追う利益至上主義の足元をすくって倒す。

麦田が、岩城に小馬鹿にされ続けていた白百合製パンの社長の谷崎(小林隆)にかけた「偉そうなこと言ったって食パンひとつ作れないんですよ。あいつら」という励ましの一言が象徴的である。

愛すること、食べること、暮らすこと。日常に溢れる人の体温を何よりも大切に描き出す、脚本家・森下佳子の作品らしい着地点だった。

ラストシーンで感じた願い

ドラマのラストシーンで娘のみゆきは、未満に終わった今回の恋と亡くなった夫を今も想い、しんみりしている義母の亜希子に、良治が瓜二つであることを逆手に取って「撮るつもりで撮れなかったあの時の写真」を撮ることを提案する。

こうして、「死んだ夫に顔だけそっくりな男相手に傷ついた経験」は「あり得た未来の幸福の写真」に昇華して物語は終わる。

人生の不本意も、上手く噛み合わなかった人間関係も、見方を変えて幸福な記憶と巡りあえた奇跡に変える。

それは人生をタフに生き抜く力強い知恵である。陽だまりのような父親と何事も全力で一本気な義母、それぞれの愛を受け継いで得た、みゆきの中の誰からも奪われない力である。

そういう意味では、亜希子さんの子育てはもう立派に終わってるんだよなあと思う。

でも故郷の馴染みの店のように、何年かに一度でもいい、亜希子さん、みゆき、麦田、ぎぼむすの面々に会えたらいいなと願っている。

ブランクを感じさせないあの世界を覗けたらいいなと思っている。


[文・構成/grape編集部]

かな

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