【『初恋の悪魔』感想5話】このレールはどこに辿りつくのか・ネタバレあり
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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2022年7月スタートのテレビドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
私たちはこの奇妙なドラマに足を踏み入れたその時、最終的にどこにたどり着くのかはよく分からないままに切符を買った。
どんな景色の旅になるのか、まだ半分も分からないけれども、最終的にこれまでに見たことのない目的地にたどり着くのだという確かな予感はあった。
しかし5話を見て怖くなった。
果たして乗ったのは列車だと思っていたけれど、もっと過激ななにか、大きならせんを描き、激しく揺れ、時に水しぶきのかかるジェットコースターか何かだったのではないか。
4話までの、牧歌的にカタコト揺れていた音は、ジェットコースターの長い長い最初の登り区間だったんじゃないか。
同じドラマ、同じ登場人物。ひと繋ぎの同じレールの上で、私たちはいま、どちらが頭で足なのか分からなくなるような急降下と急上昇を味わっている。
休職中の刑事の鹿浜鈴之介(林遣都)、警察署の総務担当・馬淵悠日(仲野太賀)、経理担当の小鳥琉夏(柄本佑)、生活安全課の刑事・摘木星砂(松岡茉優)。警察署にいながら組織から少しずつはみ出している4人が織りなす不思議なミステリアス・コメディ『初恋の悪魔』(日本テレビ系 土曜22時)。
鈴之介は異端としての生きづらさを、悠日は平凡さゆえに下に見られる痛みを、小鳥は片思いの相手に振り向いてもらえない哀しみを、そして星砂は多重人格から来る不安定さにそれぞれ苦悩しながら4人は事件の解決を通して距離を縮めていく。
5話、ストーリーはこれまでとはがらりと違う展開になり、鈴之介が暮らしている家に、鈴之介すら知らない地下室があること、その地下室をめぐる隣人・森園(安田顕)とのトラブルを通して鈴之介の過去が描かれる。
これまで4人が事件を考察した『自宅捜査会議』では、最初に事件を俯瞰するために事件現場のジオラマを作成する。
ジオラマで俯瞰されず表に出ない地下室の存在は、ひどく不穏で薄気味悪い。
1年前、この家を鈴之介に譲ったのは椿静枝(山口果林)と名乗る老婦人だった。
子供の頃から周囲になじめず、大人になって一層孤独感を深めていく鈴之介の心を唯一解きほぐしてくれたその恩人は、過去にブロック塀の倒壊事故で娘と孫を亡くし、その無念から倒壊事故に関わった人物の監禁事件を起こしていた。
自分にとっては人生で唯一の恩人と思っていた人物が実は猟奇犯罪者であることを知って呆然とする鈴之介だが、同時に偏屈で人嫌いな自分と出会うことで静枝が救われたこと、安らかな気持ちで死んでいったことを知り、複雑な思いを噛みしめる。
静枝は厭世観(えんせいかん)に沈むかつての鈴之介に語りかける。
静枝「世の中を恨む悪魔になっちゃだめ」
鈴之介「人間は苦手なんです」
静枝「人は人。自分らしくいれば、いつかきっと未来の自分が褒めてくれる。僕を守ってくれてありがとう、って」
悪魔というこのドラマのタイトルの半分が初めてここに現れる。
自分が救われたと思っていたけれども、実際には自分が相手を救っていた。
恋ではないけれども、マイナスとマイナスが掛け算してプラスに転じるような出会いだった。
そしてこれは3話の居酒屋のシーンで星砂が悠日に語りかけた「誰かと出会ったとき、それが変わるんだよ。平凡な人を平凡だと思わない人が現れる。異常な人を異常な人だと思わない人が現れる。それが、人と人との出会いの…いい、美しいところなんじゃないか」というセリフにも繋がっていく。
初回、医師が多忙すぎて患者が命の選択に晒される、2話、兄弟同士の格差が分断を起こす。3話、年金が足りなくて高齢者が横領に手を染める。
物語が静かに浮かび上がらせるのが、この国で淡々と静かに進行しているあらゆる原因の見えづらい病巣だとすれば『悪魔』はその裂け目から生まれてくるものかもしれない。
それならば悪魔を寸前で引き留めるもの、悪魔を引き戻すものは何か。
ともにマイナスだとしても、マイナスとマイナスでプラスに転じるような出会い、星砂が悠日に語ったカテゴリやラベルにとらわれない会遇が、その鍵になるのだろうと思う。
鈴之介の危機を残りの3人の機転で乗りきって、4人の絆はより深まったが、この回のラストで一気に物語は暗転する。
悠日の不審死した兄の携帯をめぐって星砂は行方不明になり、もう1つの人格で鈴之介の前に現れて誘惑めいた言動を見せる。
そして鈴之介の隣に住む作家の森園が、5年前に起きた監禁ののちに、遺体で発見された少年の殺人事件に関わった弁護士であるということも明らかになる。
解決し距離を縮めたその直後、更なる猟奇と分断が螺旋のように加速する。
まだ物語は、ようやく点が線になりはじめたばかりだ。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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