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【『初恋の悪魔』感想6話】名前未満の愛おしいもの・ネタバレあり

By - かな  公開:  更新:

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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2022年7月スタートのテレビドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ系)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

このドラマで、何気ないけれど、ふと目について覚えている場面がある。

2話、鹿浜鈴之介(林遣都)の家でいつもの4人が大福を食べながら話すシーンだ。摘木星砂(松岡茉優)は、残った大福を持ち帰るためなのか、大事に紙に包んで手元に置く(結局は忘れて帰るが)。

そういえば、星砂は馬淵悠日(仲野太賀)相手にも最初に会ったとき、「食べるものを持ってないか」と問いかけていた。どちらも食べることに対する切迫感が透けて見える。

用心深いけれども、安心して受け取れる相手からは食べ物をもらって、その時食べられるだけ食べて、すっと離れるさまは誇り高い野良猫のようだ。

誇り高く生きることと引き換えに、暮らしの基盤は脆いけれども、常に相手の本質を真っ直ぐに見据える星砂のまなざしは美しい。

大福をみんなで食べた時に「おまえら、粉、こぼさずに食えねえのか」と、少年のように乱暴な言葉とともに、口の端に粉をつけて笑った顔も忘れがたく素敵だった。

優秀だが変人の刑事課の刑事・鈴之介(林遣都)、真面目で優しいが平凡な警察署の総務担当・悠日(仲野太賀)、愚痴っぽいが友達想いで、一途に刑事課の新人刑事に片思いしている経理担当・小鳥琉夏(柄本佑)、そして二重人格により途切れる自分の記憶に悩む生活安全課の刑事・星砂(松岡茉優)。

組織からはみ出して生きる4人が事件を追う『初恋の悪魔』(日本テレビ系 土曜22時)。

前回5話から、物語はおそらくストーリー全体の核になるだろう悠日の兄・馬淵朝陽(毎熊克哉)の3年前の殉職と、5年前の少年拉致殺害をめぐる謎に踏み込んでいる。

更に今回、6話ではそれらの事件と星砂の二重人格の、別の人格が深く絡んでいるさまが提示される。

正直、1~4話までは、いつもの坂元脚本と変わらずセリフもキレキレだし、コメディの部分もさすがの匙加減であるけれども、それでも物語がどこに向かっているのかは全く見えず、心許ない感じが消えなかった。

だが、5話から6話にかけた怒濤の展開に、ここまでのばらばらに散りばめられたエピソードは、織り上げる前の『糸』の準備だったのだと痛感する。

今回、鈴之介は『もう一人の星砂』と出会い、互いに心を寄せあって彼女の過去を知る。

学生の頃に、心無いいたずらで傷ついた鈴之介の思い出に、真剣に怒る『もう一人の星砂』のしなやかな正義感と、つらい過去を語ろうとして中断する星砂に「途中でやめようとした話こそ、いちばん話したい話です」と気遣う鈴之介の、傷ついて生きてきた者特有の優しさが呼応する会話は、見ていてじわじわと熱量が上がっていくような見事さだった。

刑事の星砂は、傷つきながらも綺麗ごとを抱えて誰かの居場所であろうとする悠日に惹かれていく。

けれども、もう一人の星砂は、過去に『頭がよくて、正しくて、近道が好きな』人々(おそらく良識を振りかざす人々ということなのだろう)に、大切な人である淡野リサ(満島ひかり)との居場所を奪われた記憶から、綺麗ごとを語る悠日には警戒心を抱いて相容れない。

今回のラストシーン、悠日を拒んで鈴之介の服の肩口を掴む『もう一人の星砂』の手に、見ている私たちも胸がぎゅっと痛む。

これは、異形ゆえに傷ついてきたひとりと、凡庸ゆえに踏み付けにされてきたひとりと、転落の危機を持ちこたえながらぎりぎりで生きているひとりが、互いの欠けたところを補うように惹かれ合う恋の物語だ。

坂元裕二の作品の魅力は、もちろん洒脱な言葉を選りすぐって磨かれたセリフ群ではあるけれども、更にそのセリフを対話としてふんだんに積み重ねた末に見えてくる『名づけられない関係』にあると思う。

例えば、家出少女のたまり場と言えば一般的には不穏な響きしか残らないそれを、風の強い日に髪をなびかせてみんなで道草をして、ただ「おかえり」と「ただいま」を大切にして、それ以上を求めない風通しのよい何かに描きだすこと。

例えば、男社会の横暴にしなやかに抗いながらレストランを営む女たちの繋がりを、単に職場の同僚という枠におさめずに豊かに鮮やかに描きだすこと。(テレビドラマ『問題のあるレストラン』2015年 フジテレビ系)

例えば、3回の結婚を経た女社長と夫たちの関係を、白黒ありがちな名前の感情にとどめずに、繊細なグラデーションの日々として描きだすこと。(テレビドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』2021年 フジテレビ系)

精緻に染めた感情の糸で、社会のいまを通して、未知の布を織りあげていく。

彼が描き出す『今は』名前のない関係は、私たちが半歩先、いつか未来で見つける何かだと思う。

今作ではどんな色の、そしてどんな手触りの布に、私たちは触れることが出来るだろうか。


[文・構成/grape編集部]

かな

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出典
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