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【『ファーストペンギン!』感想2話】逆流を泳ぎぬけ!・ネタバレあり

By - かな  公開:  更新:

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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2022年10月スタートのテレビドラマ『ファーストペンギン!』(日本テレビ系)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

森下佳子脚本ドラマの序盤はつらい。

何作品か見て分かっているけれども、『ファーストペンギン!』(日本テレビ系 水曜22時)の2話、ヒロインをとことん追い詰める容赦なさにまたしても唸った。

ヒロインが苦難を乗り越え、問題を解決して仲間を得て目的に進んでいく。そのストーリー自体エンターテインメントとして王道だが、森下脚本でのヒロインの苦難は他のそれよりも更に一段闇が深いと思う。

NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』の時には、主人公・め以子が嫁いだ先の小姑の和枝が繰り出す『いけず』は、嫁いじめと言うには悪意が底知れなくて恐ろしかった。

大河ドラマ『おんな城主直虎』の時も、ヒロインが領主になった当初はどこを向いても敵だらけで、頼りになるはずの幼なじみも敵方に離反しているように振る舞い、痛々しいことこの上なかった。

2021年のテレビドラマ『天国と地獄〜サイコな2人』(TBS系)は男女の入れ替わりが物語の主軸だが、ヒロインは入れ替わった相手、つまり自分の姿をした相手から、意図的に食物アレルギー反応を仕組まれて死にかけてしまう。

そして、今作「ファーストペンギン!」である。

物語のスタートは、現在の10年前。

ヒロインの岩崎和佳(奈緒)はシングルマザーとしてとある漁港に引っ越してくる。そして、ひょんなきっかけから、漁師の片岡洋(堤真一)と出会い、漁獲量が落ちてさびれていく浜を元気づけられるような事業を考えてほしいと頼まれる。

折しも国が六次産業化プロジェクトを募集し始めた矢先で、水揚げされた魚を通販で直接販売する『お魚ボックス』の企画を見事に通すものの、彼女の前に立ちはだかったのは従来の販路を外そうとする企画を快く思わない漁協の組合長・杉浦久光(梅沢富美男)だった。

一度は和佳の企画に賛成した片岡も、杉浦の圧力に負けて翻意してしまい、かくして和佳はハシゴを外され漁港の中で孤立してしまうのだった。

とにかく、これでもかと和佳にふりかかる試練がえぐい。

最初に依頼してきた片岡にハシゴを外されただけでも随分な話だが、その後どんなに漁師を鼓舞しようとしても無視され、自腹でお試し用の『お魚ボックス』を作って売ろうと奮闘しても魚を買えないように裏で仕組まれ、あまつさえ頼みの綱の六次産業化プロジェクトの認定さえも組合長の策略で取り消されそうになってしまう。

しかもその理由が和佳がハニートラップで統括担当を脅迫したというひどい嘘なのだった。

くじけない和佳のバイタリティもすさまじいが、実はその苦難の一つ一つに、そっと寄り添う人達がいる。

とりわけ、周囲に対して大きな声をあげるわけではないけれど、土砂降りの中で傘をそっと差しだしてくれるような女性たちの助力が印象的だ。

内緒で魚を売ってくれる女仲買人、解雇しても部屋からすぐに追い出さずに待ってくれる女将、逃げ回る役人に会えるように仕組んでくれるホステス、突然のトラブルの時にごく自然に子供を預かってくれるママ友、そして認定取り消しの動きにシグナルを出してくれる農水省の女性官僚。

これは、確かにファーストペンギン・和佳の話だけれども、同時に、もしファーストペンギンたりうる特別な輝きの誰かに、(私自身含め)平凡に生きている人生で出会ったならば、どのように振る舞うかという話でもあると思う。

すぐに大手を振ってついていくほどの勇気はなくても、転びかけたところに手を差し出し、気持ちがくじけた時にはそっと背中をさすってあげるような、今、出来ることで支えればいいということではないか。

対して、このままでは寂れていく地域社会を維持できないと危機感を持ちながらも、既存のしがらみに絡めとられて動けない、漁師の片岡や中年男性たちの煮え切らなさは実にじれったい。

その動きの鈍さ、現状ではまずいと思いながらも、暮らしを維持していかねばならない彼らの焦り。

それらの矛盾は、今現実の社会を覆う閉塞感そのもののように見えるし、脚本は彼らのがんじがらめのしんどさを、今はじっと静かに見据えて描いている。

2話を終えて、今のところは一難去って更に大きな一難といった具合で辛い展開が続くが、最初に書いたように、序盤の辛さは森下作品の大きな特徴である。

中盤から終盤にかけて『その時』がくれば、まるで一気に咲きはじめる花のようにあらゆる登場人物が、そして序盤では到底好きになれそうになかった敵役までもが魅力的に変貌し、主人公が乗り越えてきた苦難一つ一つに意味があったのだと実感する。ドラマを見続ける楽しさが、そこには詰まっている。

十年後の息子が語りかける優しいナレーションは、そこにたどり着くための地図なのだろう。

まだリクライニングシートを倒してリラックスとはいかないけれど、物語は希望に向けて旅立った。揺れながらも力強く目的地を目指している。


[文・構成/grape編集部]

かな

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