【『恋せぬふたり』感想 第1話】寂しくない人生と我慢はそもそも天秤か・ネタバレあり
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2022年1月スタートのテレビドラマ『恋せぬふたり』(NHK)の見どころをレビューします。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
昭和が終わって34年、ミレニアムで数えれば22年。
例えば四半世紀。25年という年月を振り返ってみたとき、世の中は良くなったような、悪くなったような。
何かが解決に向かえばそこで新たな問題が起きるし、振り子のように左右に大きく振れる価値観もあって、世の中が良い方向に向かっている実感は一向に得られない。
それでもこの25年で確実に社会の認識が変容したもののひとつに、性的マイノリティに対する理解の広がりがあると思う。
もちろん、まだ十分に理解が進んだ訳ではなくて、今はまだ『こういう人たちが少数派として実在して、社会の一員である』という認識が定着した程度なんだろうと思う。
じゃあ、どうすればみんなが生きやすい社会になるのか。
その模索はこれからも続く。
その模索の過程に、揺れる水面の写し絵のように、優れた映像作品が浮かび上がることがある。
とりわけNHKは、これまで性的マイノリティを描いたドラマの秀作を送り出してきた。
テレビドラマ『弟の夫』『女子的生活』(2018年)、『腐女子、うっかりゲイに告る。』(2020年)これらの一連の秀作の中に、おそらく今作『恋せぬふたり』(NHK月曜22時・主演岸井ゆきの/高橋一生 W主演)も入ることになるのだと思う。
価値観を揺さぶる、ドラマ『恋せぬふたり』
今作が描く性的マイノリティは、『アロマンティック・アセクシャル』。
大まかに、乱暴に言ってしまえば、他人に恋をしない・他人に性的に惹かれないことが指向という人たちのことである。
最初に概要を見た時にまず思った。そういう、恋愛にあまり興味のなさそうな、世間でいうところの淡白な人は自分の知人にもちらほらいる。そういうのとは違うのか。
はたまた、最近巷に溢れている偽装結婚から何だかんだで恋愛になってしまうパターンのドラマ(それはそれで定番として楽しいが)なんじゃないのか。
※写真はイメージ
だが、実際に初回を見て、すぐにそういう定型を徹底的に、用心深く取り除いた作品だということがわかった。
主人公の一人、兒玉咲子(こだまさくこ 岸井ゆきの)は、仕事熱心でコミュニケーションの能力も高い。
両親と既婚の妹、家族との関係も概ね良好だが、恋愛感情を持てない、わからないという一点ゆえに、まるで単語の半分を聞き取れない外国語の中で暮らしているような不安とともに生きている。
その点を周囲に説明する言葉を持たないことが、彼女の内面の恐れと不安をさらに増大させている。
※写真はイメージ
仕事で親身になった異性の後輩から恋愛感情を持たれたことで仕事の信頼関係が破綻し、家族から未婚を腫れ物扱いされることに疲れて、友人と予定していたルームシェアは友人の恋愛優先の決断で流れてしまう。
疲弊した咲子の前に現れるのが、もう一人の主人公、高橋羽(たかはしさとる 高橋一生)である。
羽には自分の恋愛・性的指向に自認があり、表現できる言葉と意思がある。しかし同時に他者に対する不信感や深い諦念を抱え込んで生きているように見える。
※写真はイメージ
物怖じのない咲子が、羽に恋愛感情抜きの家族として一緒に暮らさないかと無鉄砲に提案するところで初回は終わる。
作中で咲子を少しずつ削りとっていく、周囲との軋轢(あつれき)と受ける痛みがひりひりしてリアルだ。それは性的マイノリティではなくても、職場に恋愛感情を一切介入させたくないと思っている人には近似の痛みだからだ。
羽が周囲の無神経な対応に苛立つ言葉もまたリアルだ。
それもまた性的マイノリティならずとも、皆同じ価値観で生きていると無邪気に信じている人相手に言葉が通じない絶望に近似の苛立ちだからだ。
互いの閉塞感と諦めの中で、羽の「どんなセクシュアリティであれ、誰かと一緒にいたい、独りは寂しいという思いはわがままじゃないと思います」という言葉が小さな灯火のように薄暮を照らす。
※写真はイメージ
脚本、演出、演技、全てが丁寧に作られた初回だったが、そのセリフひとつだけでも、今作を最後まで見届ける価値があると思わせる美しい言葉だったと思う。
このドラマの初回を見てから、これまでの人生で「ちょっと面倒くさがりでも自分は普通」だと信じて疑いもしなかったけれども、じゃあ普通って何だろう、その普通の基準点はどこにあるのか、そして、もしもその基準点が存在するとして、自分の位置はどこなんだろうと考え込んだ挙句に、立っている足元がおぼつかなくなった。
見るものの価値観を揺さぶる。きっと、いい作品になると思う。
[文・構成/grape編集部]
かな
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