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【『VIVANT』感想3話】一つの画面に違和感なく「二人の男」を同時に表現する堺雅人の円熟

By - かな  公開:  更新:

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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2023年7月スタートのテレビドラマ『VIVANT』(TBS系)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

騙すつもりはなくても本当のことは言えず、また隠されている側も何か隠されていると知りつつもそれ以上は口にせず、そういう曖昧な親しさというのも人の中には存在するのだろうなと思う。

信頼と利害関係の間にある緩衝地帯。過酷な砂漠をゆく4人に、そして都内の片隅でもんじゃ焼きをつつく3人の姿に、そんなことを考えていた。

初回から視聴者の度胆を抜く迫力のロケ映像と、主演級がずらりと名前を連ねる豪華な配役、そして何よりも一度見始めたらもう画面の前を動けないスリリングな展開が大好評の『VIVANT(ヴィヴァン)』(TBS系 日曜21時)。

大手商社丸菱商事勤務の乃木憂助(堺雅人)は、桁ひとつ間違えた100億円以上の誤送金の濡れ衣を着せられ、返金交渉のために中央アジアの某国・バルカ(ドラマ上の架空の国名である)を訪れる。

金の行方を追ううちに自爆事件に巻き込まれ、テロリストとして現地の警察に追われることになった乃木は、日本の公安警察・外事第4課の刑事、野崎守(阿部寛)と、バルカで医療活動をしていた医師の柚木薫(二階堂ふみ)の3人で決死の逃避行を試みる。

執拗に追いすがるバルカの警察を振り切るため、3人と野崎の仲間のドラム(富栄ドラム)を加えた一行は、生きては戻れないと言われる死の砂漠に足を踏み入れる。

今回、3話で一旦バルカでの逃走劇は区切りがついて、舞台は日本へと移るのだが、陽炎が揺らめく砂漠の前半と、サーバールームの点滅の中を駆け抜ける後半それぞれに見所がいくつもあった。

まず印象に残ったのは、途中行方不明になった薫を救助に向かった乃木が力尽きたラクダに語りかける場面である。

砂漠の真ん中、死の淵、そこにいるのは自分と意識が朦朧としている薫、そして人の言葉を理解しないラクダ。しかもラクダはもう歩く気がないらしい。

そんなラクダに、「こんな辛い思いをさせてごめんよ」と、自分の痛みのように話しかける乃木の姿は哀しみとともに心をうった。

危機の淵にその人間の地金が見えるというのなら、悪態一つつかずにラクダに詫びる乃木憂助という男は、何かを隠しているとしても心の底から優しいのだろう。

そして同様に、「8時間以上は待たない、先に行く」と宣言しながらも、結局2人を救いにやってきて「よく生きてたな」とねぎらう野崎という男も、捨てられない情を抱えて生きているのだろう。

そういう男だからこそ、ドラムのような青年が危険を顧みず尽くすのだと思う。

ド迫力のモンゴル国境のシーンでは、視聴者としては敵役ではあるけれども、自分の国を守るために心身を捧げているバルカ警察のチンギスと、異国の刑事への友情に生きて母国に居られなくなるドラムのそれぞれに想いを馳せた。

砂が舞うバルカ編とは打って変わって、東京では緻密かつスピーディな誤送金問題をめぐる作戦行動が繰り広げられる。

興味深いのは、初回から時折挟まれている乃木の二重人格が、はっきりと独立した二つの人格だと示唆するシーンが幾つか見られたことだ。

もう一人の自分を、乃木は「エフ」と呼び対話する。口論したり、励ましたりもする。名前があるということは、他者と認識しているということだ。

エフと呼ばれる男は、2話目では野崎が乃木に気があるんじゃないかと忠告したり、今は乃木が薫に片思いしていることを頻繁に気にしていて、乃木にちょっかいをかけている。

一見切れ者のようだけれども、人の心の機微にはちょっとポンコツ気味のようだ。大人というより、その言動は少年めいている。

だがエフの「いつだって俺を呼んでいるのはお前の方じゃないか」という言葉は、人格の分離と同時にエフと乃木の複雑な距離感も示唆していて耳に残る言葉だった。

凄腕のハッカーだが何だか適当で飄々とした東条(濱田岳)そして野崎の作戦と、乃木の同期・山本(迫田孝也)の献身的な助力と、乃木の決死の疾走で誤送金を仕組んだ人物は明らかになった。

しかし砂漠でエフが乃木に「俺たちにはやることがあるんじゃないのかよ」と叫んだ言葉、神社で意味ありげに一瞬映る祠(ほこら)。

乃木は初回、イスラム教にも敬意を表して祈りを捧げようとしていた。信仰やそれに対する敬意は何かの意味を持つのかもしれない。謎はまだまだ尽きない。

一方で誤送金問題は次回で一旦決着となるようで、メインだと思っていたごちそうがまだコースの一皿目に過ぎなかったというのは、いかにも日曜劇場らしい豪華さである。

まだまだ後半を貪欲に味わえるよう、当方も心して待ちたい。


[文・構成/grape編集部]

かな

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