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【エルピス 第2話 感想】『フィクション』でありながら『リアル』に感じる絶妙なさじ加減

By - grape編集部  公開:  更新:

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Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。

2022年10月スタートのテレビドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(フジテレビ系)の見どころや考察を連載していきます。

今真実として見えている世界は、嘘か真か。

「真犯人は野放しになってるんですよ」

大洋テレビの番組『フライデーボンボン』のコーナーMCを担当するアナウンサー・浅川恵那(長澤まさみ)は、そう言い残し早々に離脱した若手ディレクター・岸本拓朗(眞栄田郷敦)に代わり、12年前の連続殺人事件の冤罪を暴くために、一人で事件を追っていた。

そんな中、事件は再び音を立て始める。行方不明となっていた八飛市在住の女子中学生・中村優香が八頭尾山で遺体で発見されたのだ。

そして首には絞められた跡が。これは連続殺人事件の被害者と同じ状況だった。

これが真犯人ならば死刑囚となった松本良夫(片岡正二郎)の冤罪を証明できる。

浅川は今が世間の興味を引ける絶好のチャンスだと考え、自分のコーナーで取り上げようとするも、プロデューサーの村井(岡部たかし)達に猛反発され即刻却下。

誰も危険な橋は渡りたくない、お気楽で地に落ちたまま安定してしまった環境。それが業界の墓場『フライデーボンボン』だ。

落ちこぼれた者達の受け皿というのは、実際、浅川も同じだった。だが浅川は固く決意していた。

「私はもう、あとに引く気はない」

チェリーが明かした、松本の素顔

浅川は逮捕当日に松本の家で保護されたヘアメイクのチェリーこと大山さくら(三浦透子)から話を聞く。

彼女が声を震わせながら語ったのは、松本から感じた確かな温もりだった。

事件が起こった日はチェリーの誕生日だった。19時頃に家に帰ると、松本はカレーを作り、お祝いのケーキも用意して待っていた。

虐待を受けてきたチェリーにとって、これが初めて生まれてきたと実感した瞬間だった。虐待から身を救い、誕生日まで祝ってくれた松本のことを思うと、殺人犯とは信じ難かった。

他人に見せる表情など、本当の姿のほんの一面に過ぎないのかもしれない。それでもチェリーはこの十数年間、たった一人で裁判記録を纏め上げ、冤罪事件と闘い、松本を信じてきたのだ。

そんな思いを受け、浅川はひとまず事件当日の松本の行動を洗うことに。

そして一度は手を引いた岸本も、浅川の動向は気になって仕方なく、その異様に強い目力で浅川を見つめ続け、覚悟はないが自分も手伝いたいと申し出てくる。

無責任に足を踏み入れ、人の目を怖れて中途半端に身を引いたと思ったら、覚悟なんてそらに浮いたまま首を突っ込む。

そんな現代の若者の写鏡のような岸本に呆れつつ、仲間は多い方がいいと考えた浅川は、岸本にも松本の動きを再現してもらうことに。

その中で、違和感があることに気づく。

弁護側は退勤後、食品とケーキを買ってそのまま帰宅。1時間かけてカレーを作ったと主張。

しかし検察側は、ケーキを買った後八頭尾山に向かい、30分の間に殺害して、チェリーが帰宅するまでの10分でカレーを作ったと主張していた。

実際に二人が検察側の主張通り足取りを再現するも、時間的に厳しいものがあった。

しかも10分で作ったカレーは当然不味く、ケーキは原型を留めていなかった。

そんな短時間でカレーを作れるもんじゃないことを、検察側の人間も解っていたはずだった。

それでも、松本を挙げるという上の方針は変わることはなかったのである。

しかも、岸本が協力をお願いしていた報道局のエース斎藤正一(鈴木亮平)によると、山の入り口で目撃されたのは『ロン毛の若者』だと報道されたが、いつの間にかこの目撃証言はすり替わっていったのだ。

このインチキな報道が偽物の真実を作り上げたのだろうか。最初から全て無かったかのように。

そして控訴審から松本を弁護していた木村卓(六角精児)を通して面会を申し込んでいた松本から、浅川宛てに手紙が届く。綴られたのは、悲痛な叫びだった。

「私は弱い人間であります。情けない男であります。しかしながら、私は決して殺人犯ではありません」

身に覚えのない罪で力づくで連行され、昼夜問わず暴力を振るわれ、脅され続けれ、身も心も疲弊したタイミングで、認めれば楽になれると見せかけの優しさに、松本は「もう許してください」と漏らしてしまった。

それが自白の代わりとなった。松本は今、死刑囚として突然処刑を告げられる朝、格子の隙間から差す光を見る時を待っている。

そんな、違う世界線だと思いたくなるような自白の取り方を有り得ないと感じただろうか。

きっとリアルならば、私達は自分が巻き込まれてなくて良かったと思うだろう。

真実がそうだと簡単に飲み込んでしまうのは、自分のテリトリー外のものには、潜在的に信頼を寄せていると見せかけて、ただ無関心なのだ。

だが実際そうした大きな権力が、松本のような声の小さい弱い者を選別し、踏み潰すと同時に、何も知らない人間を、嘘で塗り固められた簡単には出られぬ塀の中に追いやるのだ。

そして今日も純白なケーキを笑って食べる。それが本当はぐちゃぐちゃになっているとも知らずに。

『エルピス』がフィクションでありながらリアルな点

情報提供のお礼として斎藤を自宅に招いたとき、そして「マスコミ報道は無責任」と木村に突かれたとき、浅川は自分のこれまでの有様を思い返していた。

浅川は上層部にかけあって入社3年目でサブキャスターとなった。将来性のある斎藤との関係も、今思えば自分を大きく見せるための手段でしかなかった。

その矢先のスキャンダル。浅川は皮相だけを見続ける自分に気づいたのだ。ずっと前から知らぬうちに沢山のものを失っていた。

そしてそれは『どんなことが起こっても正しい真実を伝えるキャスター』という夢も同じだった。

「そんな夢は一生叶えられないと知りました」

浅川は思い出す。

3.11。原発に関して、問題ないと強調した自分を。

2020五輪の招致。汚染水による東京への害はないと、最終プレゼンを報道した自分を。

東京五輪が開催決定し、震災復興へ人々も期待を寄せているというコメントをした自分を。

そこには、実在する出来事の映像と共に、笑顔の仮面を着け、渡された原稿を、何度も練習して修得した『真実のような語り口』で伝える浅川の姿があった。

この作品が『フィクション』であり同時に『リアル』な点はここにある。

実際の事件から着想を得た今作で、現実にリンクさせた演出‍が伝えるのは、目に見えない圧力だ。

あたかも真実のように伝えられた中に紛れてしまった真実や抑え込まれた叫びがどれほどあったのかということなのだ。

この一つの冤罪事件を通して、私たちも今、見つめ直すべきなのだ。

第1話と変化した第2話ED

初回から続いて大注目となった第二話。今回で気になるのが初回とのEDの違いだ。

最後、浅川を見ながらショートケーキを食べていたチェリーから、じっと見つめるチェリーに変わっている。

事件の鍵を握っているのチェリーという暗示なのだろうか。そして浅川と斎藤の関係、岸本の掌の鉛筆で刺した傷の記憶とは…。

そして死刑囚の死刑を執行を告げるニュースを、浅川達は目にする。また『本当の真実』が消えてしまうのだろうか。次回も目が離せない。


[文・構成/grape編集部]

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出典
エルピス ―希望、あるいは災い―

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