【『VIVANT』感想4話】冷酷ささえも魅力に変える堺雅人の演技
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SNSを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2023年7月スタートのテレビドラマ『VIVANT』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
ラストの10分で自分含めて視聴者が衝撃を受けたのは、乃木憂助(堺雅人)が『別班』だったからではない。
それは初回からある程度予想されていたことで、何度もそれらしい目印が描かれていた。
だが、私たちが予想している以上に彼が冷酷だったことが、私たちを驚かせたのである。
主人公のその冷酷さは、日曜の21時台の民放ドラマで私たちが想定する決着の境界線を越えていた。
壮大なロケーション映像、豪華な配役。更にストーリーの厳しさを加え、まさに破格のドラマだと改めて思った。
中盤に入って、評価も視聴率も右肩上がりの『VIVANT(ヴィヴァン)』(TBS系 日曜21時)。日本の大手商社の片隅で始まった誤送金事件は、中央アジアの小国バルカから砂漠を経て再び日本に戻った。
誤送金を仕組んだ犯人は丸菱商事で経理を担当している太田(飯沼愛)だと判明するものの、公安の野崎(阿部寛)は他に太田に指示を出した黒幕がいるはずだと考えていた。
野崎と乃木は協力してあぶり出し工作を試みるも、その黒幕は意外なところから判明する。
薫(二階堂ふみ)がバルカから呼び寄せた少女・ジャミーンが持ってきた写真に写っていたのは、バルカに行ったことがないはずの乃木の同僚・山本(迫田孝也)だった。
3話まで出ていないことで話題をさらっていた松坂桃李が、この回ついに別班の一員・黒須として登場する。
NHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』(2012年)『わろてんか』(2017年)、『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系・2016年)と、どちらかというと素直な好青年役の印象が強い松坂桃李だが、過去に『劇場版MOZU』(2015年)で見せた、狂気と暴力を煙のように纏わせた演技も印象深かった。
今作では乃木を先輩と呼び、別班の一員として、他人を騙すことも暴力も、殺人までも、まるで遊びの延長のような醒めた目の青年を演じている。
おそらく今作の黒須は、三十代半ばの松坂桃李にとって俳優として更なるキャリアを切り開く転機の役になるだろう。
黒須と、別人格のFが出現した乃木が山本を尋問し裁くシーンは、山本を演じる迫田孝也の怪演も加わって鳥肌の立つような数分間だった。
命乞いをする山本に、言葉では条件次第では助けると応じながらも、あっさりと時間がないと自白剤に切り替える。
最初から尋問、自白剤、そして『排除』まで既定路線だったのだと思う。
「美しいだろう?この美しき我が国を汚す者は何人たりとも許せない」
山本の処刑の前にFが口にしたこの言葉。「迷いのない正義と信念」は、まるで精緻に研ぎすませて、実用するには人を過剰に傷つけてしまう長く鋭い刃物のようだ。
それでも辛うじて、公安を入れずに直接連れてきた方がよかったという黒須に、太田の命を優先させたかったからこれでいいと語るFの言葉は、温かみとともにある種の救いのように思えた。
乃木の経歴に疑念を持ち続けていた野崎にとって、この誤送金事件の決着は乃木の正体を確信する決め手になるだろう。
そして新たに大きな疑問が生じる。
山本がテロ組織『テント』の手先であると判明するきっかけのジャミーンの写真。
なぜジャミーンの家族がテントの一員を写した写真を持っているのか、ジャミーンの父親であるアディエルはテントと何らかの関係があったのか。その疑念は、父娘と家族のように親しかった薫にも及ぶ。
公安である野崎も、別班である乃木も、それを見過ごすことはないだろう。
乃木、野崎、薫。三人の信頼と疑念が絡み合う関係がそれぞれどのように変化していくのか、この先も一瞬も見逃せない展開が続く。
そして何度も差し挟まれる、両親にまつわる記憶。まだ乃木憂助という人物の全貌は見えてこない。
冷酷さを露わにしてなお魅力が増す、その男の行程を最後まで見届けたい。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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