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「なんで生まれてきたの」ちょっと意地悪な質問 即答した息子の回答が秀逸【grape Award 2018 入選作品】

By - grape編集部  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

grapeでは2018年にエッセイコンテスト『grape Award 2018』を開催。『心に響く』をテーマにした多くのエッセイが集まりました。

今回はそんな心に響くエッセイの中から、佳作に選ばれた『息子と、とんかつ。』をご紹介します。

息子と、とんかつ。

来月で3歳になる息子がいる。仕事が早く終わった日は、一緒に風呂に入る。息子は、湯船にぶくぶく顔を沈めながら、恐らくたまにおしっこをしながら、「なんで?なんで?」と聞いてくる。

子:とーちゃん、なんで毎日、会社行くの?なんで?なんで?
僕:お金が欲しいから。
子:なんでお金欲しいの?なんで?
僕:ある一定の幸せを構築するためには、お金が必要だから。
子:なんで、幸せになるの?なんで?なんで?
僕:

息子は、ゆでダコみたいに真っ赤になりながら、なんで攻撃を続けてくる。

出口のないループザループ。就職活動の時に流行った、自己分析のようである。いつも、僕が答えられなくなって、会話は終わる。昨日、こんなことを聞かれた。

子:とーちゃんは、なんで生まれてきたの?
僕:え…
子:なんでなの?

「なんのために生まれてきたのか?」我々人類が抱える永遠のテーマとも呼べるこの難問に、僕は文字通り言葉に詰まった。アンパンマンのエンディング曲でやなせたかし先生は、何と言っていただろうか?口ずさんでみるが、明確な答えにたどり着くことはできない。

人類が誕生してから、今、この瞬間まで、この問いに誰もが納得する答えを出した人など、おそらく、いないのだろう。

毎日、家と会社を、二日目の鍋の白菜みたいにくたくたになりながら往復しているだけの僕などには、到底答えられるものではない。答えに窮した僕は、逆質問にでた。2歳11ヶ月のゆでダコ息子に問うてみた。

僕:じゃあ、きみは、なんで生まれてきたの?なんで?

少しドキドキした。言いようによってはなかなか辛辣しんらつな質問である。困るだろうと思った。しかし、息子は、僕の心配などよそに、迷うことなく即答した。

子:そんなの、トンカツを食べるために決まってるでしょ。
僕:え…
子:トンカツだよ。

なぜそんな簡単ことも分からないのか?というような言い方であった。この回答に、きっと我々人類は、何か大切なことが学べるのではないかと思い、ここに記した次第である。お風呂から上がった息子はフルチンで走り回ったあと食卓に着くと、サクサクに揚がったトンカツを、ソースを口の周りにべっとりとつけながら頬張っていた。

子:とーちゃん、トンカツ食べないの?なんで食べないの?

見逃してしまいそうな小さな幸せを、一つずつ丁寧にかみしめながら生きてゆく。例えばそれも、生まれてきた理由になるのだろうか。

僕:来月の誕生日、何が食べたい?

息子は、真剣な目で答える。
子:とーちゃん。そんなの、ギョーザに決まってるでしょ。

生まれてきた理由をたくさん見つけられる人ほど、幸せなんだと思った。

grape Award 2018 佳作
タイトル:『息子と、とんかつ。』
作者:三上和輝

『心に響く』エッセイコンテスト『grape Award 2018』

grapeでは2017年よりエッセイコンテスト『grape Award』を開催しています。2018年には昨年を大きく超える695本のエッセイが集まりました。

その中から最優秀賞・1作品、タカラレーベン賞・1作品、優秀賞・2作品、佳作・4作品が選ばれました。

入選したその他の作品は、こちらからご確認いただけます。

『grape Award』に関して詳細はこちら。


[構成/grape編集部]

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