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作業服の男性客が「こんな格好でごめん」というと… 店員の『返答』に、胸が熱くなる

By - grape編集部  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

2020年7月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。

『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。

今回は、応募作品の中から『母ちゃんと作業着』をご紹介します。

母ちゃんと作業着

私は山形で生まれた。実家は焼き鳥の店だった。幼い頃は、それでよくからかわれた。まだ周りにはそういった店はなく、街で初めての酒を提供する店だった。毎日お客さんがやってくる。学校の先生や警察官、農家、工場勤務のサラリーマン、いろいろな人がやってきた。隣のパーマ店の息子さんやその友人達もやってきた。息子さんの切ない恋模様なんかも店の中で繰り広げられた。

夏は近所の方や業者さんを招待し、店の前の敷地でビアガーデンをやっていた。お店と住居が繋がっているため、お客さんのカラオケや会話が良く聞こえた。宿題をしながら聞こえてくる歌や話し声のおかげで、私は寂しくなかった。むしろ賑やかな毎日だった。

店を切り盛りするのはママ、私の母だ。日中は店の仕込みで忙しく、夜は焼き鳥の店を開いているため、かまってはもらえなかった。家族で食卓を囲んだ記憶はなく、夕飯はお皿にラップがしてあり、各自が勝手に食べるルールだった。

夜の12時前にのれんを下ろす。やっと母と話せる時間がきた。私はお店のカウンターに行く。帳簿とお金を数える母を見ながら、今日のお客さんのことや、学校のこと、たわいもない話しをするのが楽しみだった。唯一、母とゆっくり話せる時間だ。

山形は雪が深く、冬は私服に長靴の方や、農家や工場の方は作業着でやってくる。都会の人のように洒落た服や洗練されたスーツなど見たことない。

「ママやー、こんなカッコで飲みさ来てしまった。恥ずかしちゃー、悪いのー」

仕事帰りの作業着で晩酌しにきたようだ。照れながら謝るお客さんに、母は微笑み、おしぼりを渡す。

「どげだ立派だスーツや服よりもの、私は作業着が好きだー。なぁにも恥ずかしくね。その作業着で汗水流して稼いで、家族を養ってるんだがら、どげだ格好より最高にカッコイイ姿だ」

母の生まれた家は、宴会場の舞台やお祭りの舞台でショーをする家業だった。高校を休んで泊まり込みで、一座を引き連れてどさ回りをしたこともあると話す。だから学も無ければ、なんの資格もない。

お客さんに言った言葉は、きっと母自身にも言い聞かせていた言葉だったのかもしれない。どんな仕事でどんな格好であろうと、一生懸命働き家族を養うことに誇りを持っていたのだろう。

子供三人を育てあげ、私は看護学校まで行かせてもらった。病気がちな父を看取り安心したのか、最近は母が旅立った。母と過ごせた時間は少なかったが、大切なことを教えてもらった。

母の言葉は私の心に染みついて、思い出として輝いている。焼き鳥の匂いが染みついた母のエプロン、母の服、水仕事で荒れた手、最高にカッコイイ姿だと思う。

ありがとう、母ちゃん。

grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響いた接客エッセイ』
タイトル:『母ちゃんと作業着』
作者名:よもぎ

特別協賛企業のご紹介

株式会社タカラレーベン

株式会社タカラレーベンは全国で展開する総合不動産デベロッパーです。
「幸せを考える。幸せをつくる。」を企業ビジョンとして掲げ、幸せをかたちにする住まいづくり、街づくりを実現しています。

本コンテストでは、『心に響く』をテーマとした全応募作品の中から特に「幸せ」が感じられる作品に、『タカラレーベン賞』が贈られます。

皆さんのご応募をお待ちしています。


[構成/grape編集部]

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