神様と約束した時間がどのくらいあるのか 私たちは常に『余命』を生きているのかもしれない
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
神様と約束した時間を生きる
神様と約束した時間が、あと120日だとしたら……。元気で過ごす120日なのか、それとも弱っていく120日なのか。
どう生きるかはそれ次第ですが、それまで体験したことのない体の衰えと共にある時間と考えるのが妥当でしょう。
大好きな友人が若くして亡くなったとき(これが、彼女が神様と約束した時間だったんだ)と思って、その死を受けとめようとしました。受け入れ難いことであっても、それは起こってしまった現実です。
そのとき私の胃腸は動かなくなり、食べたものを消化できなくなりました。その症状は、現実を消化できないことと重なります。
悲しい現実と自分の心の折り合いをつけることがこんなにも難しいことか。身体も教えてくれました。
直木賞作家の山本文緒さんは、2021年に膵臓がんで亡くなられました。58歳、それが、山本さんが神様と約束した時間でした。
膵臓がんと診断され、余命4ヶ月を宣告されました。抗がん剤治療がうまくいって9ヶ月。
山本さんが余命を宣告されてから綴った日記『無人島のふたり』(新潮社)には、命を終える日へ向かう悲しさ、葛藤、焦燥、諦め、希望……そして、アップダウンを繰り返しながら弱っていく体調が記されています。
肩に力の入った文章ではなく、後世に何かメッセージを残さなければという気負いもなく、ただ余命を告げられた日常と、胸の中に吹き荒ぶ思いが綴られています。
書くことを手放さない作家の矜持も感じます。
1994年に亡くなった安井かずみさんも、最後の日々を綴った『ありがとう!愛』(大和書房)という詩集を残しました。
出版されることを前提に書かれたのかどうか、それはわかりません。最期まで夫の加藤和彦さんを愛し、キリスト教の洗礼を受け、ただただ愛と感謝を綴った詩集です。
「金色のダンスシューズが散らばって私は人形のよう」この言葉が絶筆となりました。最後の言葉に、安井さんの無念さが閉じ込められているようで、胸が痛みます。
言葉を綴るということは、ただただ自分を見つめ続けることだと思っています。アーティストのための作詞をするために物語を作りますが、すべて『自分』を通して生まれるものです。
それは自分の経験を通して……ということではなく、自分がどのように世界を見つめているか、ということの表れでもあります。
ですから、言葉を生業とするものは、書くことを手放せない。自分がこの状況の中で何を感じ、どんな感情を抱くのか、それを見ずにはいられない。それを記録せずにはいられないのです。
なぜなら、書くことが自分に向けての存在証明だからなのです。
神様と約束した時間がどのくらいあるのかわかりません。私たちは常に『余命』を生きているのかもしれません。
時間を、そして自分を大切に大切に抱きしめながら、生きていきましょう。
※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」