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「喰らう」というのは、「生きるということに集中する」ということ

By - 吉元 由美  公開:  更新:

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食事をする女性の写真

吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

豊かに、丁寧に、人生を喰らう

映画『土を喰らう十二ヵ月』を観ました。水上勉の料理エッセイを原案に、信州の里山でほぼ自給自足の生活をする作家の一年を描いた作品です。

主人公のツトムを沢田研二、ジュリーが演じます。担当編集者で恋人の真知子には松たか子。

干し柿、栗の甘露煮。畑で取れた里芋を炭火で焼く。大葉をたくさんちぎって入れた茄子の味噌炒め。掘り立ての筍を、たっぷりと酒を入れた昆布だしで。炊き立ての筍には玄関先に植っている山椒の葉を山盛りのせて、喰らう。

土を喰らうとは、旬を食すること。季節を通して自然の恵みをありがたくいただく。まさに「いただきます」という言葉にこめられた心が生きています。

食に向き合うその精神は「生かされている」という感謝につながり、『大切に生きることの大切さ』を教えてくれます。

タケノコご飯の写真

ツトムが奉公先の禅寺で学んだ精進料理は、素材を生かし、少しの材料でも大切に扱い、丁寧に調理する。

ごはんとお味噌汁と、菜っぱの和えもの、それにお漬物。そんな質素な食事に、真の豊かさとは何かということを考えさせられます。

大型マーケットへ行くと、欲しいものはほとんど手に入ります。買い過ぎて食材をダメにしてしまう。うっかり消費期限が過ぎてしまうことも。

フードロスを気をつけていても無駄にしてしまうこともあり、反省です。

出汁の写真

映画の中で、ツトムがほうれん草を洗う場面があります。「ここが一番おいしい」と、昔住職から教わったことを思い出しながら、たらいの中で丁寧に土を洗い落とし、根についているヒゲを落としていきます。

ほうれん草を慈しむように洗っている所作に、美しく生きる在り方を感じました。

そう言えば、「ほうれん草の根や赤い部分には栄養があるのよ」と、私の母もよく言っていました。ほうれん草を洗うたびに、胸の奥で母の言葉を辿るように思い出します。

そんな思い出につながるからか、この場面をとても懐かしく思ったのでした。

ほうれん草を洗う写真

野菜を洗うという日常の中の所作、野菜を洗う、切る、炊く、炒める、茹でる……そこには祈りにも似た敬虔なものがあるように思います。

ツトムが禅寺で学んだ精進料理では素食、菜食を心がけ、材料を余すところなく使います。精進とは仏道修行に励むこと、ひとつのことに精神を集中させること。

この作品の中心となる「喰らう」というのは、「生きるということに集中する」ということでもあるのだと思います。

物語は二十四節気、季節の移り変わりと共に進んでいきます。それは、その季節ごとにもたらされる恵みに生かされることを表しています。

めぐりくる旬を感じること。それは、人生の季節を感じながら生きていくことにつながるのです。

ツクシの写真

生きるということ。丁寧に生きるということ。忙しいこの社会の中でも、私たちは気持ち次第でもっと豊かさを感じることができるということ。

自分自身の『土を喰らう十二ヵ月』を豊かに味わいたい、と思います。

いのちを紡ぐ言葉たち かけがえのないこの世界で

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吉元 由美
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※記事中の写真はすべてイメージ


[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
吉元由美オフィシャルサイト
吉元由美Facebookページ
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