生きているすべてのものが愛しい 年老いていく愛犬・ラニが教えてくれること
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
年老いていく愛犬が教えてくれること
我が家のトイプードルのラニは、8月で12歳になりました。人間でいうと64歳。私の年齢を越えました。犬ですから顔は子犬の頃とそれほど変わりません。家族が大好きで、散歩が大好きで、「取って来い」が大好きで、ごはんやおやつが楽しみで…そんな10年の中で、あたりまえのことですが確実に歳を取っていました。
小型犬の平均寿命が15年前後、大型犬は10年前後と言われています。命あるものは、神様と約束してきた時間がある。わかっていても、いま、腕の中にある温かくて、柔らかくて、もふもふした愛しいものがいなくなる時がくる。考えたくありません。だから、いま、この時間を大切に過ごそう…。そう思い直すたび、ラニを抱きしめます。
犬はオオカミの子どもの特徴を残したまま分化したと考えられています。犬は1歳になる前に成犬になりますが、無邪気さや愛らしさ、遊び好きという子どもの特徴を持ったまま大人になります。また動物認知学の研究では、どんな匂いよりも犬は飼い主の匂いを優先させることが証明されました。また、人間がたてた音、声について敏感に反応を示すために、人間と犬との親密なコミュニケーションが取れる、そこに絆が生まれると言います。
私は特に犬好きでもなく、むしろ生き物は苦手でした。娘の希望で犬を飼うことになったのですが、まだ1kgちょっとしかないラニを抱っこした時、世界にこんなにも愛しい存在があったのか…と、胸の奥から熱いものがあふれ出して泣きそうになりました。娘が生まれた時に広がった世界が、さらに広がったのです。種という枠を超えて「愛する」「慈しむ」「育む」ことを体験している。自分の犬だけでなく、生きているもの全てに対する思いが深くなりました。すべてのものが愛しい。これは、ラニが教えてくれたことです。
無償の愛があるから「愛する」「慈しむ」「育む」ことができるのか。それともその3つを体験したから無償の愛を与えることができるのか。犬とだけではなく、種を超えてつながることがこの世界を豊かなものにしていくのだと思います。人間同士、同じ種でありながら民族、国という枠を超えて分かち合えないというのに、どうして種を超えていけるのか。そこに深いジレンマを感じずにはいられません。
話が大きくなりすぎました。ラニは、耳が遠くなりました。ピンポンの音に激しく反応していたのに、今は聞こえないようです。そして、深く、長く眠るようになりました。目も、うっすらと青みがかりました。こんな変化が、これからもあるのでしょう。受けとめて抱きしめること。それが愛です。泣いてはいられません。愛して、慈しんで、育んで、豊かな時間を刻みます。
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作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」