【考察】“愛してはならない”のその先に… 大泉洋の強い瞳『ちょっとだけエスパー』第7話
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【コラム】大泉洋の表情に目を奪われたシーンは… 『ちょっとだけエスパー』第6話ドラマ『ちょっとだけエスパー』第6話を考察。物語はのんびりした癒やし系から一転、一気に骨太のSF展開へ! 記憶が混乱し泣きじゃくる四季(宮﨑あおい)を抱き寄せる文太(大泉洋)の表情から、野木亜紀子の複雑な脚本を体現する大泉洋の「愛情と陰鬱」が入り混じる名演を深掘りします。
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SNSを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2025年10月スタートのテレビドラマ『ちょっとだけエスパー』(テレビ朝日系)の見どころを連載していきます。以下、ネタバレが含まれます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
ノン・アマーレ、愛してはならない。誰かを愛したら、あとで傷口が広がるから。
愛する人がいて誰かに愛されていて、社会との繋がりが多い人は『犠牲』にできないから。
兆(岡田将生)が、一度は社会との関わりが途絶えた人物ばかりをエスパーにスカウトしている理由について、何となく察してはいたけれど、はっきり言葉にするとやはり残酷だ。
これが更にしんどいのは、現実の社会でも独身は仕事が多くなりがちだとか、転勤を命じられがちだとか、そういう事実の延長に思えるからだ。
『ちょっとだけエスパー』(テレビ朝日系)に浮かぶ淡い毒。やっぱり野木亜紀子の脚本だと思う。
横領で会社をクビになり、住む家も家族も失って無気力に生きていた文太(大泉洋)は、兆という謎の男から会社にスカウトされる。
採用の条件は、奇妙な薬を飲んでエスパーの能力を得ること、その力で会社から示されるミッションを達成すること。
能力のことは秘密にすること。最後に人を愛さないこと。
不審に思いながら文太は同じ仲間のエスパーたち、そして妻だという四季(宮﨑あおい)と出会い、暮らしはじめる。
楽しく平穏な日々が続くように見えたが、文太らと敵対するエスパーが現れ、四季の記憶が混乱し始めたことで事態は思わぬ方向に動き出す。
少しだけ特殊能力が現れる薬を活用して、未来に大きく干渉しない程度に選択をずらし、何らかの未来を回避する。
そして記憶をインストールする薬で四季の行動を操作して未来の危険から遠ざける。
第7話で、ようやく兆の目的の輪郭が見えてきた。だがまだ分からないことの方が多い。
なぜ兆は四季に夫婦としての記憶を与えて愛情を維持しようとしながらも、2025年の自分と四季を寄り添わせるそぶりはないのか。
興味深いのは、初めて立体映像の兆が四季と出会う時、クリーニング店にあった薬の瓶だ。
兆が実物に触れることが出来ない以上、その瓶もまた誰かがミッションという名の下にそこに置いたはずだ。
おそらく、文太たち以外にも多くの『いてもいなくてもいい』人々がエスパーとしてノナマーレには存在している。
それが過去形でなければいいけど、と前回の八柳(小島藤子)を思い出して薄ら寒くなってしまった。
全体的にドラマチックで動きの大きかった7話でもっとも心を揺さぶられたのは、偽の記憶をめぐって不安定な気持ちの中、互いを想い合う文太と四季ふたりのシーンだった。
自分は本当は文太の妻ではないと感づいた四季が、文太の胸に手のひらを当てて、「(心の声が)聞こえたら、いいのに」と呟く。
その前に「嫌いなわけ、ないでしょう」と言われても、優しすぎる文太がどれだけ悩み、苦しんでいるのかはわからない。
それを聞き取りたいと願う四季に、文太は少しだけ考え込んでから、飄々(ひょうひょう)とした声音で「お腹がぺこぺこで悲しぃーい」とおどける。
その言い方に思わず笑ってしまうのに、切なくて胸が締め付けられる。
この可笑しさと切なさがごちゃ混ぜになった愛おしさ。
ここぞという時に大泉洋から溢れだすその温もりは、映画『街の灯』のチャップリンみたいだと思う。
さらに7話では、これまで何を考えているのか読めなかった市松(北村匠海)の内面が、徐々に掘り起こされている。
現代の若者らしく冷めているように見えるが、実際には点いて消える自分の命の不安を1人で抱え込んで耐えている。
そして、自分より年下の紫苑(新原泰佑)を危険に巻き込んだことを誠実に詫び、命を助けてくれた文太には皮肉を交えながらも感謝を伝える。
そんな市松の達観したところと繊細さを、北村匠海の静かな瞳が表現している。
文太のように、メンタルが不安定な相手に静かに寄り添い、急かすことも否定することなく時折そっと支える。
それは間違いなく愛だ。
では、愛する相手を不自然な力で思い通りにして、他人を駒のように使う兆のそれは何なのか。
正しくはない、しかし多くを犠牲にして踏みつけても、愛する人を守るという決意もまた、歪ながら愛だろう。
その二つの愛情が複雑に絡み、未来が揺らぐ。
やはりこれはSFであると同時に壮大なラブストーリーなのだ。
[文/かな 構成/grape編集部]
かな
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