grape [グレイプ] society

ハエ専用のバーチャルリアリティで脳信号を解読!?

By - 土屋 夏彦  公開:  更新:

Share Post LINE はてな コメント

2017年9月5日、理化学研究所はハエ専用のバーチャルリアリティ(仮想現実)装置を独自に開発し、これを使ってハエの飛行中の脳信号を解読。ハエ独自の視覚や記憶の神経回路を発見したと発表しました。

哺乳類や昆虫を含む多くの動物は、視覚と記憶を使い、より効率的にエサを見つける方法を導き出す能力を持っていることが知られています。

また、自分がどの方向にどれくらい動いたか(自己運動)を考慮することで、「いま自分がどこにいるか」を知ることができる能力もあるんだそうです。

こうした動物の感覚、記憶、自己運動などの情報を使い環境を探索する能力は、哺乳類や昆虫を含む多くの動物に共通しているそうなんですが、脳がどのようなに情報処理を行って実現されているかは、解明されていませんでした。

こうした研究には、主に哺乳類の探索行動の仕組みが調べられてきたそうですが、哺乳類の脳は大きく、また複雑なため、探査行動を担う情報処理を解析することが難しく解明が進んでいませんでした。

そんな中、バーチャルリアリティ技術の革新的な進歩も相まって、小さな生き物での調査が可能となり、小さな脳で巧みに探索を行っているハエが調査対象としてフォーカスされました。

理研の研究チームは、体調約3mmのキイロショウジョウバエの成虫に着目。

固定されたハエの目の部分を覆うようにバーチャルリアリティ装置を設置。極小のディスプレイに映し出された景色に、だまされたハエが気持ちよく羽ばたき、どの方向に旋回しようとしているかを推定。これに応じてバーチャルリアリティ装置の映像も動かすことで、あたかも空間内を旋回しているかのような状況を作り出します。

ハエは固定されているんですが、飛んでいるつもりでいるわけです。この状態でバーチャルリアリティ空間を探索するハエの脳内で行われる情報処理を解明、記録することができました。こうした昆虫の記憶と相関する神経活動の記録が取れたのは世界初だそうです。

この記録を分析したことで、ハエがいま見ている景色だけでなく、数秒前に見た景色の記憶を使って次にどこに飛ぶかを決めていることを発見することに成功。さらに調査を進めると、記憶と運動の情報が並行して走る、独立した2つの神経回路によって伝達されていることも発見。

これらの結果から、探索行動に関わるさまざまな情報収集において、今回発見した神経回路が、混線することなくコンパクトに探索中枢へ運ぶ伝送路の役割を果たしていることがわかったそうです。

研究チームのリーダーを務める風間 北斗 (Ph.D.)さんは、2001年3月、東京大学理学部物理学科を卒業した後、2006年3月には博士号取得。その後、ハーバード大学大学院医学系研究科神経生物学科・博士研究員などを歴任し、2010年、理化学研究所脳科学総合研究センター知覚神経回路機構研究チーム チームリーダーに就任。

以前からも昆虫の神経回路の研究などに興味を持ち、2016年にはショウジョウバエ嗅覚回路の神経活動の記録、解読に成功し、匂いの好き嫌いを決める脳内メカニズムを解明。

動物が生きていくために食べ物の匂いを嗅ぎ分けられる能力は重要とされてきたが、誰もそのメカニズムに挑戦した研究者はおらず、風間さんがそれを解明をしたことで、人に至るまでの動物全体における匂いに関する神経回路メカニズムの理解につながると期待されています。

今回の記憶と神経活動の研究においても、今後、神経回路を伝わる複数の情報(記憶、運動、視覚)がどのように統合され、行動が生み出されるかを明らかにすることで、動物が効率的にエサや交配相手を見つけだす仕組みの理解につながるとともに、こうした神経活動の仕組みを人工知能などと共に活用することで、自由に動き回れるドローンなどの小型ロボットの開発が期待されるということです。


[文・構成 土屋夏彦/grape編集部]

土屋夏彦

上智大学理工学部電気電子工学科卒業。 1980年ニッポン放送入社。「三宅裕司のヤングパラダイス」「タモリのオールナイトニッポン」などのディレクターを務める傍ら、「十回クイズ」「恐怖のやっちゃん」「究極の選択」などベストセラーも生み出す。2002年ソニーコミュニケーションネットワーク(現ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社)に転職。コンテンツ担当ジェネラルプロデューサーとして衛星放送 「ソネットチャンネル749」(現アジアドラマチックTV★So-net)で韓国ドラマブームを仕掛け、オンライン育成キャラ「Livly Island」では日本初の女性向けオンラインで100万人突破、2010年以降はエグゼクティブプロデューサー・リサーチャーとして新規事業調査を中心に活動。2015年早期退職を機にフリーランス。記事を寄稿する傍ら、BayFMでITコメンテーターとしても出演中、ラジオに22年、ネットに10年以上、ソーシャルメディア作りに携わるメディアクリエイター。

出典
バーチャルリアリティ装置を使ったハエの探索行動の解析 | 理化学研究所

Share Post LINE はてな コメント

page
top