旅は日常から解き放たれ、自分の中を旅すること それは音楽とともに
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
音楽と旅をする〜New York State of Mind
旅は、計画を立て始めたときから、始まっている。そして、旅は音楽と共にある。2年ぶりのニューヨーク。ニューヨーク行きを決めると、佐野元春の『Tonight』が頭の中でなり始めます。そしていつもの車の中でも、旅支度をするときにも『Tonight』オンリーに。『Tonight』は、佐野元春が1年間のニューヨーク生活を経て発表された1984年のアルバム『VISTORS』からシングルカットされた曲です。
「ニューヨークのアパートに着くと、僕はまず隣の部屋のドアをノックした」
ライナーノーツにこのような感じのことが書いてあり、まだニューヨークに行ったことがなかった私は、刺激的なカルチャーの中で新しいものが生まれるかもしれないという期待と憧れを持って『Tonight』を聴いていたのを覚えています。ジョン・F・ケネディ空港に着き、マンハッタンへ橋を渡る。脳内BGMのボリュームはマックスです。これも旅する気分を盛り上がるひとつなのです。
私にとってニューヨークはレコーディングで訪れた場所であり、娘が大学生活を送る街であり、訳詞を担当したミュージカル『RENT』の舞台となった場所です。『RENT』はLGBT、ドラッグ、HIVという背景を持つお金のない若いアーティストたちの葛藤と、今この瞬間を生きることの尊さを描いた作品。イースト・ヴィレッジが舞台です。イースト・ヴィレッジからソーホーのあたりは、以前はギャラリーが多く、アーティストたちが集まるエリアでした。
30年近く前になりますが、杏里のレコーディングでニューヨークに行ったときにアンディ・ウォーホールのセリグラフを買ったのもこの辺りのギャラリーでした。いまはもうすっかりファッションの街に。ギャラリーも好きだったイタリアン・レストランも姿を消しました。
大好きなこのエリアを歩くときには、『RENT』のテーマ曲とも言える『Seasons of love』が頭の中に流れてきます。「一年を愛で数えよう」と語りかける歌詞は、人を隔てるものは狭い価値観と意識でしかないことを伝えてくるのです。
人種と格差と差別のカオスであるこの街を歩くのは…たとえ1週間の滞在であってもちょっとした精神力がいるのです。ニューヨークに疲れたときにこの曲を聴くと、人を見る目が優しくなるのです。
旅は音楽とともに。そして、音楽は心の中の旅へ誘ってくれます。旅は、日常から解き放たれ、自分の中を旅することでもあります。娘が大学の寮に戻ってひとりになってから、ふとビリー・ジョエルを聴きたくなりました。『New York State of Mind』この街の本当の魅力は、住んだ者にしかわからない。心の深い部分が求める何かがあり、求める者だけがその真髄に触れることができるのかもしれない。
ビリー・ジョエル
記憶の片隅にある、この街での小さな思い出を手のひらで転がしながら、帰りの飛行機の中でも『New York State of Mind』を聴いていました。
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作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」