「元気でね」想いが心からあふれるとき、言葉のふくらみとなって現れる
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
言葉のふくらみ
1年9か月ぶりに留学先から娘が一時帰国。スケジュール満載の2週間を過ごし、また大学に戻っていきました。
羽田空港は少し人が多くなった感はありますが、多くのフライトが欠航しています。今は検査票などの確認がありいつもよりもチェックインに時間がかかるので、私は先にカフェでコーヒーを飲んで待つことにしました。
チェックインカウンターを見下ろせる席に座り、旅立つ人たちを眺めていました。
隣のテーブルに座ったアラブ系の男性は、FaceTimeなのかLINEなのか誰かとうれしそうに話していました。これから国に帰るのかな。お土産が入っているのか、紙袋を時々覗いては微笑んで。
空港はさまざまなドラマが行き交う場所。出会いと別れ、それぞれのドラマがあります。
チェックインを済ませた娘と日常のたわいもない話をしながら、ああ、またしばらく会えなくなる……と胸の奥がきゅっとします。
「もう、入ろうかな」
「もう?」
「ボーディングまで、あと30分」
検査場に入るとき、ぎゅっとハグをして娘が言いました。
「元気でね」
私も伝えたいことがたくさんあるのですが、思いは胸の中をぐるぐると回り、言葉にしたら泣いてしまいそうで、ただ抱き締めていました。私も「元気でね」と言うのが精一杯。
検査場の入口には、私と同じように子どもを見送った親たちが、姿が見えなくなってもずっと佇んでいました。
「元気でね」
わずか5文字の中にどれだけの想いがこもっているでしょう。言葉のふくらみ。『言葉の含み』という言い方がありますが、私には『ふくらみ』という表現が優しく響きます。
言葉にできない想い。伝えたいのにうまく伝えられない想い。そんな想いが心からあふれるとき、想いは言葉のふくらみとなって現れる。
「元気でね」という言葉には祈りがあります。「大丈夫」という言葉にも祈りがあります。「ありがとう」には有ることが難しいことがあることへの深い感謝がこもっています。
「おかげさま」には、森羅万象への感謝。そんな5文字の言葉を口にする時には、それぞれの貴い気持ちがこもっているのです。
言葉のふくらみ。5文字の中にこもっている想いの深淵さは、愛すること、生きることの貴さとなって心にしみます。それもまた言葉のちからなのでしょう。
※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」