池上永一の小説が今、熱い! クセが強い三姉妹のお宝争奪戦を描いた『海神の島』とは
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値上げラッシュが相次ぎ、お金について考える機会が増えた2023年。夢や目標を抱く人にとって、大きな額の臨時収入は魅力的なものです。
みなさんは「お宝を見つけたら、大金がもらえる」といわれたら、どうしますか。
『海神の島』が文庫化!作家・池上永一にインタビュー
失われた秘宝を探し出したら、5億円が手に入る…そんなロマンあふれる設定を舞台に、個性豊かな三姉妹がお宝争奪戦を繰り広げる、冒険小説『海神(わだつみ)の島』。
作者は、俳優の仲間由紀恵さん主演でテレビドラマ化もされた『テンペスト』などで有名な、ベストセラー作家の池上永一さんです。
【『海神の島』あらすじ】
沖縄で生まれ育ち、それぞれに夢や目標を抱いて人生を切り開いてきた、花城汀(なぎさ)、泉(いずみ)、澪(みお)の三姉妹。
ある日、三姉妹のもとに、祖母の漣(れん)オバァが所有する土地の相続の話が舞い込む。遺産を相続できるのは、海神の島にあるといわれる『海神の秘宝』を探し出した者のみ。
年間の地代収入が約5億だと知った三姉妹は、それぞれの特技をいかして、沖縄・東京・九州・山口・台湾などへ出向き、宝探しに奔走するが…。
現代の日本で、行方不明になった秘宝を探し出すとは…胸が高鳴る展開ですよね!
『海神の島』の魅力の1つとして挙げられるのが、破天荒でクセの強いキャラクターたち。
中でも三姉妹の言動には、度肝を抜かれつつも、たびたび笑ってしまいます。
三姉妹には、汀・泉・澪という、すべて水にまつわる名前が付いています。池上さんいわく、名前を水に関するものでそろえた理由には、北条司さんが描く三姉妹の怪盗が活躍する漫画『キャッツ・アイ』への想いがあったといいます。
水にしたのはね、まあ海の話だし。『キャッツ・アイ』が好きだったので。
『キャッツ・アイ』が、目に関する名前なんだよね。
三姉妹の名前を水でそろえて漢字一文字にしたのは、そこに対する、ちょっとオマージュじゃないけど。
読売新聞オンラインで一年間連載されていた本作品。毎月60枚ずつ書くという制約の中で、「まずは100枚書いて、そこから削っていって60枚に収める」という形をとり、執筆していたといいます。
中でも、長女である汀が働く『クラブ汀』が登場するシーンは筆が乗りがちで、「100枚のうち、50枚くらいが『クラブ汀』の話になってしまうこともあった」と、笑いながら明かす池上さん。
物語の構成上、泣く泣く削ったシーンには『クラブ汀』の姉妹店の話や、歌舞伎町のホストクラブと対決するエピソードもあったのだとか!
銀座のクラブには行ったことがないので、汀の経営する『クラブ汀』は全部妄想によるもの。
書いている時に、次から次へと変な女が出てくるから、僕にとっては「21世紀最初の大発明をしてしまったかもしれない」っていうぐらい、びっくりした。
変な女を100人出せっていわれても、なんの苦もなく出せると思う。
僕…変な女の人、大好きなんですよ。
個性豊かなキャラクターぞろいの『海神の島』の中でも、書いていて一番楽しかったのは、長女の汀だという、池上さん。
一方で、キャラクターの作り方に苦労したのは、次女の泉でした。
どっちかというと、泉のほうが心配で。
ちゃんと話を回収してくれる係だから信頼度は高いんだけれども…。汀が強烈すぎて、キャラが負けたら困る。
泉は、頭が固くて学究肌で、男ウケもないけど、なんとか共感可能なレベルのキャラクターに持っていかなきゃいけない。
泉はダサくても、ちゃんと魅力的に見えるかを意識しました。
言葉の端々に、自身の小説の中に登場するキャラクターに対する、海よりも深い愛情をにじませる池上さん。
これから『海神の島』を読む読者に向けて、注目してほしいポイントとして、次女の泉が、深海に潜り込む技術を使った飽和潜水で、ダイビングするシーンを挙げました。
飽和潜水は、宇宙をイメージして書いたな。書きながら、潜っている時の、生身っぽさを感じたの。
息がゴロゴロするような感じや、ピンボケしてよく見えなくなって…。多分、こんな感覚なんだろうなと思って、書いていた。
泉、斧で戦うじゃないですか。中国のダイバーたちと。
本当に一気圧の環境とは違う中で、どんな感覚で生きていくのかって、飽和潜水のシーンがないと、想像もしなかったことだったから。
「海の中で生きる女性であり、学者として活躍する泉ちゃんの姿にも、注目して読んでほしいなって思います」と、力強くうなずく池上さん。
池上さんの語るイチ押しのシーンとは、まさに冒険小説としての側面が色濃い、物語も佳境に入る第10章『海底の決闘』で描かれた、以下の場面のこと!
『海神の島』カバーイラストに描かれた『海底の決闘』のシーン
池上さんは、もともと第10章では三姉妹を集合させ、三つ巴のシーンにする予定だったのだとか。
しかし、直前に「次女の泉だけで、このシーンは成立させられる」と考え、予定を変更。そこには、描くのに苦戦していた泉のキャラクターを確立させる意図もあったといいます。
10章の『海底の決闘』を泉だけでやると決めた時に、泉が主人公格で、男性が読んでも女性が読んでも、やっぱりかっこいいと思ってほしかった。
僕も、ここに泉の魅力をさく裂させるよう、集中するって決めたから。
泉だけに絞り込んで、ようやく「この子が、汀に勝るとも劣らぬぐらいの魅力のある人物」って、自信を持っていえるようになった。
池上さんは、第10章を書き終えた際に「この物語はきれいに終われる」と確信を持てたといいます。
池上永一『海神の島』執筆のため、福岡や沖縄本島へ
『海神の島』執筆にあたり、古代史の勉強と物語の舞台を想起させる土地へも足を運んだという池上さん。
取材に向かったのは、福岡県の宗像市や、沖縄県の伊是名島(いぜなじま)と伊平屋島(いへやじま)。それぞれの土地に根付く文化や風土を、肌で感じ取ってきたのだそうです。
「もともと福岡は大好きだけど、宗像市には初めて行った」という池上さん。宗像大社にある収蔵品を直に見たり、街並みを実際に歩いたりして、創作のイメージをふくらませたのだとか。
物語の重要な部分である『海神の島』の描写については、伊是名島や伊平屋島で見たものや感じたことを参考にしたそうです。
沖縄本島の北にある伊是名島や伊平屋島は、陸地に囲まれていない海である外洋(がいよう)を経て、ちょっと離れているのね。
サンゴ礁がなくて、あんまり沖縄っぽくない景色ではある。
この荒々しさって、きっと『海神の島』に通底するだろうなって、とっかかりがあって。
「ちゃんと『海神の島』の風土っていうものをとらえられるだろう」って。
池上さんが、本作品を書き始めたきっかけは、お宝が眠っているとされる『海神の島』について、腰を据えて描きたかったからだといいます。
一方で、普段からプロットを作らずに小説を書いている池上さんは、今回も大まかな流れのみを用意し、肝心の『海神の秘宝』の正体については、決めずに書き始めたのだとか!
そういった裏話も知った上で読み進めたら、二倍楽しめるかもしれませんね。
沖縄県出身というアイデンティティをいかした独自の作風で、数多くの作品を生み出してきた池上さんの、大胆な発想に心揺さぶられること間違いなしの小説『海神の島』。
三姉妹が探し求めた『海神の秘宝』、そして池上さんが「本気で描きたかった」と熱を込めて語る『海神の島』の正体とは、なんだったのでしょうか。
ぜひ手に取って、お確かめください!
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[文・構成/grape編集部]