【『VIVANT』感想 最終話】堺雅人と二宮和也、二人の息子たちの鮮やかな交錯
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2023年7月スタートのテレビドラマ『VIVANT』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
別班の乃木憂助(堺雅人)と公安の野崎守(阿部寛)が所属する組織を超えて力を合わせたように、組織という境界線は超えられる。
そして乃木と黒須駿(松坂桃李)の別班の二人と、テントの面々がフローライトの採掘権を得るために力を合わせたように、イデオロギーという境界線も超えられる。
野崎とドラム(富栄ドラム)の二人が、国を超えて深い信頼で結ばれているように、もちろん人種や国も超えられる。
人が最も超えられないものは、克服しがたいものは何か。
愛する人を理不尽に奪われた憎悪の火だけは、長い時間が過ぎても、あるいは他の幸せをもってしても、消しさることが出来ないのかもしれない。
この名作ドラマの最終回に、そんなことを考えていた。
壮大なロケ映像、豪華な配役、そして毎回ジェットコースターのような先の読めないストーリーで、視聴者の熱い考察を社会現象にまで押し上げた『VIVANT』(TBS系 日曜21時)。
17日の最終話で、激動の物語はテロ組織テントの解体と父子の別離という結末に着地した。
最終回まで俯瞰しても、物語の大半で誰が味方で誰が敵か分からない、登場人物それぞれがどんな信念で行動しているのか分からない、独特の混沌とした物語だったが、それがこのドラマの良さそのものだったように思う。
内通者は容赦なく処刑するダーティな部分を持つ主人公、無差別に人を殺傷するテロリストでありながら多くの戦災孤児を養ってきた主人公の父。
偶然知りあった男が法の支配を無視した危険な存在だと知りながらも魅せられて追う公安の刑事、汚職や賄賂の横行するバルカで清濁を併せ持ちながら警察官として生き抜く男。
いわば完全に白い善もなければ、完全に黒い悪もまた存在しないという物語だった。
誰かの悪が誰かの善になり、その逆もあるという世界だからこそ、それならばせめて己の信念を貫け、ブレるな、一度信じたものを裏切るなというメッセージがより鮮やかに、随所に発信されていた。
今作は、公安・別班といった組織を舞台にスパイアクションを基調にしながらも、同時に経済ドラマとしての側面も色濃く持っている。
最終話もテントとバルカ政府のフローライトの採掘権を巡る契約の攻防戦がじっくりと描かれ、それがテロ組織解体への道筋となった。
単純なアクションドラマに収まらないそのテイストは、テレビドラマ『半沢直樹』(2013年・2020年)、『下町ロケット』(2015年・2018年)、『ノーサイド・ゲーム』(2019年)といった、日曜劇場で数多の大勝負と金勘定を描いてきた福澤克雄作品らしいダイナミックな味わいだった。
最終話でとりわけ記憶に残るシーンがある。
日本に移送された後ノゴーン・ベキ(役所広司)が脱走し、動揺して問い詰める乃木にノコル(二宮和也)が呟くように言った言葉である。
「憎しみは喜びで消えるほど簡単なことではなかった」と、愛する父が抱えたままの憎悪をノコルは「寂しいことだよ」と評して言う。
彼にとって、それは悲しいことではなくて寂しいことなのである。
失った本当の家族の写真を横目に、自分が義父の憎しみを消せるだけの喜びになりたいと願い続け、それが最後まで叶わなかった青年の孤独な長い年月が透けてみえる言葉である。
血の繋がった実の息子は父の愛を確かめたのち、再びその存在すら認められない闇の組織で生きる道に戻っていく。
日焼けすらかなわぬほどに大切に育てられたもう一人の息子は父と別れ、国を背負う大企業のトップとして陽のあたる道で生きていく。
その鮮やかな交錯は、柔和な笑顔の奥に毅然とした覚悟を秘めた堺雅人と、頑なな孤独の中に繊細な愛情を秘めた二宮和也、二人の緻密な演技があってこそ描きだせたものだと思う。
今作では、親しみの持てる容姿や表情が可愛らしくも頼りがいのある相棒・ドラムを演じた富栄ドラムや、登場時は憎々しい敵でありながら、次第にそのコワモテぶりが素敵に見えてくる警察官チンギスを演じたバルサラハガバ・バトボルドといった新しい魅力的な俳優を見られたことも大きな楽しみの一つになった。
とりわけチンギスは、少年漫画の熱血ライバルのように、その兄貴然とした魅力に筆者も含め多くの視聴者が魅了された。
まだまだ世界には、沢山の『格好いい』があるのだと思うと、それだけでも楽しい。
物語は、乃木がノゴーン・ベキと彼に付き従うバトラカ(林泰文)、ピヨ(吉原光夫)の三人を銃で撃ち、ベキの死を弟のノコルに報告し、そして乃木が薫(二階堂ふみ)とジャミーン(ナンディン・エルデネ・ホンゴルズラ)の元に帰ってくるところで終わる。
ただし、乃木からノコルに伝えられた、「徳のある人物は報いられる」という意味深な書経の一節、そして「花を手向けるのはもう少し先」という乃木の不自然な言葉、更には火事で確かめられない遺体。
これらはどうやら一つの仮定を指していると思うが、今それを確かめるすべはない。ぜひ今後その真意を知ることのできる機会があることを願う。
幸い製作サイドから続編への前向きな言葉が出ているが、決め手は視聴者からの要望次第とのこと。
改めて、「超希望!超希望!」という続編への熱烈なエールで締めたいと思う。
再び視聴者が、乃木憂助とF、野崎、薫、ジャミーン、ドラム、ノコル、そして偉大なるベキに会える日が来ますように。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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