『時を重ねる』のではなく『時を削る』 28歳の詩人が気づかせてくれる『生きる』ということ
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「昔の歌はよかった」そんな批判は的外れだった…教え子のライブで感じた『今』を生きる力吉元由美の『ひと・もの・こと』 作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。 たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会っ...

言葉は自分を守る『結界』だった…丁寧な言葉が放つ『エネルギー』吉元由美の『ひと・もの・こと』 作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。 たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会っ...






吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
『今失っていくものの価値』を思う
みなさん
もしもあなた達が
今失っていくものの価値を
知ったならば
とり返しのつかないことの
あることを知ったならば
そんなにのんきに笑ってはいないだろうに
ブッシュ孝子 9/16
これは、28歳で早逝した詩人、ブッシュ孝子の詩です。
ドイツ留学中にヨハネス・ブッシュと出会い結婚。
ほどなく乳がんを発症します。手術を受けますが2年後に再発。
その頃から詩を書き始め、生きる希望と幸福と嘆きを綴りました。
名前の横にある数字は書いた日付で、この詩を書いてから4ヶ月後に亡くなりました。
わずか4ヶ月の間に92編の詩を残しました。
それは、限られた時間の中で湧き上がる感情を、言葉を通して昇華していったのかもしれません。
書かずにはいられない。それはまさにいのちの力だったのだと思います。
偶然手に取ったこの『暗闇の中で一人枕をぬらす夜は』という詩集を、仕事の合間に何度となく読み返します。
限りある時間、それはブッシュ孝子にとってあまりにも理不尽な運命です。その彼女が私たちに問いかける。
「失っていくものの価値」
「取り返しのつかないこと」
私たちは時計の秒針が時を刻むように生きているのではなく、タイマーをセットされている。
『時を重ねる』という言い方もありますが、実は『時を削る』ように生きている。
その視点に立つと、見える世界が変わってきます。
日々を恙無く過ごしている私には、『失っていくものの価値』を彼女と同じように実感することは到底できません。
ただ、自分に与えられた時間について考えるとき、もう手にすることがないことがたくさんあることに気づきます。
最近、赤ちゃんや幼い子どもを見るとせつなくて泣きそうになることがあります。確かに子育てを経験した。
娘は自立し、とっくに手を離れている。子育てと仕事と、目がまわるように忙しかったけれど、豊かな時間だった。
幼い子どもを見て泣きそうになるのは、もう自分にはそんな時間がないという思いからなのか、愛しいものがそばにいない淋しさなのか。
それは『取り返しのつかないこと』への郷愁なのかもしれません。
ブッシュ孝子のこの詩に惹かれるのは、与えられた毎日を必死に生きろと言われているからなのだと思います。
何もかもがギフトであると。その価値を決めるのは自分であると。
詩というのは、マグマのように胸の奥で蠢く何かの発露だと思っています。
書かずにはいられない。
「いのちが語りたがっている言葉を聞きなさい」
ブッシュ孝子の詩は、つい有り難さを忘れそうになる私を揺り起こすのです。
いのちを紡ぐ言葉たち かけがえのないこの世界で
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※記事中の写真はすべてイメージ
[文/吉元由美 構成/grape編集部]