なぜ人は美しさを感じる? 人間の心に備わった『感受性というギフト』
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
美しさを感じるということ
世田谷美術館で開催されている『マルク・シャガール 版にしるした光の詩』(2023年8月27日まで)を観てきました。
『ラ・フォンテーヌ寓話集』『ダフニスとクロエ』『サーカス』などの版画集からの作品が、ゆったりとした空間に展示されています。
シャガールの空想的な絵から、詩情という光が溢れ出るような。外の厳しい暑さからひんやりとした展示室に入ると、そこは静かに澄みきった別次元の空間でした。それは単に空調が心地よく効いているということではなく、浄化された、邪が祓われた清らかさを感じたのです。
美しい。そのひと言です。物語の一場面を描いたシャガールの版画、また色彩の美しさもありますが、それだけではない。その空間の静寂も含めて、美しいのです。
そんな美しさに埋もれていたい。そうすると浄化されるような。血液をきれいにし、傷ついた細胞も修復されるような気がする。心の澱も、我も祓われるような。美しいものには、そんな力があるように思います。
美しいものは、美しいと思う人がいなければ美しくはありません。芸術でも自然の光景でも、言葉でも、生き方でも、美しいと思わなければ、「ただそこにあるもの」なのです。
人間がこの地球上に存在していなかったときに、この世界に美しいものはひとつもありませんでした。きっと海は青く、空は青く澄みきっていたでしょう。でもそれは、美しいものではなかった。美しいと思う人間がいて、初めて美となるのです。
感動すること、美しさを見出す能力は、人間にのみ備わっている。日々の生活の中に豊かさをもたらすためにも、人生を喜びで生きていくためにも、この感受性をもっと大切にしたいものです。
そして、この感受性はギフト、賜物です。どなたからのギフトなのかはわかりませんが、この世界を創造し、命あるものを創造したどなたかからの贈り物だと思うのです。
この考え方に、エビデンスもファクトも関係ありません。「頭」で受け取るのではなく、「胸」で受け取るものが、その人にとっての「真実」です。胸を震わせる感動です。
不快なものを数えるより、心地のいいことを数えた方が、生きることを楽にします。時間に追われる複雑な社会の中で、玉石混淆の情報が溢れる中で、人間関係の中で、何か大切なものが削がれていくような気がするときがあります。
そんなときは、美しいものに触れる。美術館や劇場に行かなくても、空を見上げ、足元の一輪の花に目をやり、風を感じる。そこにも、気持ちを浄化してくれる美しさがあるかもしれません。
私たちに与えられたギフトを大切に。ギフトを存分に生かすことが、「ご恩返し」になるのだと思います。
いのちを紡ぐ言葉たち かけがえのないこの世界で
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※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」