「私はここにいます!」 『書く』ことは、自分を開いていくこと
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さん。先生の日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…様々な『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
人生という物語を言葉に。
人生は物語である。毎日、変わらない日常の中にあるドラマをすくい上げることができた時、私たちの人生は豊かな彩りを見せ始める。どうしたら日々の中にある物語、そして広い視点で自分の人生を眺めることができるのか。そこにはいくつものアプローチがありますが、そのひとつが『書く』ということです。
2017年12月16日に、エッセイコンテスト『grapeアワード』の表彰式がありました。『心に響くエッセイ』をテーマに全国から246本の作品が集まりました。最終審査に残ったどの作品も読み応えがあり、点数をつけるのはとてもむずかしいことでした。筆力の高さだけではなく、とりあげたエピソードをどこか客観的な視点で眺めるように書けていたことも、とてもよかったと思います。長い文章を書き慣れていない人にありがちな『自分の文章におぼれる』感もありませんでした。
淡々として、かつ温かみを持った文章は、その人の心の底流に流れるゆるやかな愛がなくては書けないものです。『愛』というと抽象的になりますが、その人の世の中や人を見る『まなざし』といってもいいかもしれません。日常の中で起こる出来事をどのような感性ですくいとっていくか。『書く』ということが単に筆力や語彙力、分析力だけではなく、筆者の『まなざし』も大切であることを、アワードに選ばれた作品を読みながら改めて思いました。
日常の中にドラマがあることは、意識しなければなかなか感じられないことかもしれません。ドラマというと、小説や映画、TVドラマのような波瀾万丈なストーリーが浮かぶかもしれません。でも考えてみると、私たちが夢を持つことも、チャレンジすることも、誰かを愛し、愛されることも、挫折すること、愛を失うこと、誰かの死に出合うこと…。この人生が、この日常がどれだけドラマチックであるかということを、私たちはつい忘れてしまいます。
自分の人生は物語である、という視点に立つと、生きかたが少し変わるように思います。『流される』から『流れを作る』に。どんな物語にしていくか、創造的な発想をもって日々を生きられるようになるのです。
しかし、人生には自分では想像もしなかったことが起こります。仕事のことも、人間関係、社会的な変化でも、困難に陥ってしまうことがあります。どう解決しようか。どんなふうに乗り越えるか。こんな時こそ、人生のシナリオの『書き甲斐』があるものです。
また、小さな変化や、ささやかな心の動きを大切にすることも、物語を彩ります。心の機微、心のひだ、心のあやなど、日本語には微妙な心の揺れ、情動を表す言葉がたくさんあります。ということは、日本人はこのような微妙な心の動きをすくいとる感性が高かったのです。想像力と直感力。このような感性も、文章に深みを与えていくのです。
伝えたいことがあって初めて言葉になります。文章を書いてみたいのでしたら、自分の中に伝えたいことを蓄積することです。
そして『書く』ことは、自分を開いていくことにつながります。自分を開示するのは勇気がいりますが、表現は「私はここにいます!」という存在証明でもあるのです。さまざまなスタイルの文体がありますが、まずは素直に書いてみることで文章表現という水路ができるのです。
外界と心を響かせながら、心に耳を傾けながら、新しい年も言葉と共に人生を彩ってまいりましょう。
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」