桜を愛で、心を寄せるという感性の中に、日本人が忘れてしまいそうな大切な何かがあるのかもしれない
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
桜と私たちの素敵な関係
桜の季節にお約束のように降る雨と、しまいかけたセーターをまた着たくなる寒の戻り。
例年よりも早い開花でしたが、もう少し桜を楽しめそうです。青空の下の桜も美しい。曇り空でもうっすらと霞のようで美しい。
雨の桜も風情があり、風が吹き、花びらが風のかたちに飛んでいくのも味わい深いものです。桜の開花を待ち侘び、開花の知らせに心が湧き立ち、お花見を楽しむ。
日本人にとって桜は、心のふるさとの象徴の花なのでしょう。
作家の川端康成がノーベル文学賞を受賞したときの講演録が『美しい日本の私』(講談社現代新書)として出版されています。
多くの歌人たちの和歌を紹介しながら、日本的感性、そして日本の文学はいにしえの歌人たちが詠んだ和歌が礎となっていることに焦点をあてた美しい講演録です。
歌を詠むということが、当時の人たちにとって特別なことではなかったこと。そして直接的でなく、美しいメタファーを用いながら思いを歌にするという歌人たちの高度な表現力に驚きます。
形見とて何か残さん春は花
山ほととぎす秋はもみじ葉
これは、僧良寛の辞世の歌です。川端康成は、ここに日本の真髄を見たと言います。
自分は形見に残すものは何も持たぬし、何も残せるとは思わぬが、自分の死後も自然はなお美しい。これが自分のこの世に残す形見になるだろう、という歌です。
この本には日本文学研究科のサイデンステッカー氏の英訳も収録されています。サイデンステッカー氏は紹介されている歌に出てくる『花』を、多くの場合『cherry blossoms』と訳しています。
日本人と桜の親和性を表現した訳だと思います。
日本語には気象を表す言葉がたくさんあります。雨だけでも500近くあると言われています。
季節、雨の降り方をよく観察し、それらひとつ一つに美しい名前をつけた先人たちの感性に驚きます。
桜もまた、いにしえの日本人に多くのインスピレーションを与えたに違いありません。
姿形のみならず、咲き方、散り方と精神性を重ね合わせ、心を寄せてきた長い長い歳月は、今も私たちの中に息づいているのです。
桜を愛で、心を寄せるという感性の中に、日本人が忘れてしまいそうな大切な何かがあるのかもしれません。
ソメイヨシノが終わると八重桜。まだまだ楽しみは続きます。
いのちを紡ぐ言葉たち かけがえのないこの世界で
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※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」