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一時退院中に姉が書いた書き初め わたしは、わたしの姉の人生を、誇りに思う【grape Award 2017】

By - grape編集部  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

人生のタスク

6月18日は姉の命日にあたる。

姉は幼い頃より家族を思う心が強い反面、自分の利益は据え置くようなところがあり、それを象徴するようなできごとは、例えば七夕の短冊。
新しいゲームが欲しいやら、お金持ちになりたいやら、自分の欲望をありのままに書く他のきょうだいの中で、彼女は『家族が幸せになりますように』と書くような子で、母親はそんな彼女のことが逆に心配でもあったという。

そんな姉が、血液のガンである白血病を発症したと知らされたのは、2015年の2月だった。

約1か月の入院による治療で白血球数は一時的に正常値に戻ったが、その2か月後に再発し、慢性期から急性期へと転化してしまった。

急性転化すると生存率は限りなく低い、ということを知っていたので、目の前が真っ暗になるような心地がした。
しかしどんなに望みが薄くても、私たちがすがるべきは血液幹細胞移植という方法しか残っていなかった。きょうだいであれば1/4の確率で血液の型が全て一致するとされている。しかし残酷なことに、検査の結果、きょうだいの血液の型とは一致しなかった。

姉の主治医から詳しく話をきくと、どうやら姉は日本人の中でもとても珍しい型らしく、完全に一致する人は数十人しかいないとのことだった。

本来であれば全ての型が合うドナーから移植することが理想だが、7/8程度の一致率であればそれほど違いはないとのことで、化学療法を受けながら、ドナーを探すことになった。

そこから姉の約1年に渡る闘病生活が始まった。

その間、姉はよく耐え抜いた。
髪が抜け、体がだんだん弱っていく中でも、彼女の心は病に屈しなかった。

毎日欠かさず廊下を歩き、筋トレをし、大学に入り予防医学を学ぶという新しい使命感すら見出したりもした。

結局ドナーは見つからず、半分しか型は一致しないものの、年明けに兄から移植を受けることとなり、正月の間は実家に一時退院することとなった。

最後の正月、新年の抱負をみんなで書き初めしようという話になり、彼女はまめな筆致で、『使命』という2文字を書いた。

そして2016年1月29日、いよいよ移植の日を迎えた。

移植中は幸いなことに恐れていた大きな副作用もなく、無事に成功したとの知らせだったが、その1か月後、容態が急変したとの知らせを受けた。
姉は一時生死の境をさまよったが、辛くも一命をとりとめた。
しかしその後来る日も来る日も下痢に悩まされ、また、血尿や心筋障害にも悩まされるなど、過酷な日々を送った。

目に見えてさらにやせ細った彼女は、ベットに臥床している時間が多くなった。

それでもGW後の一時退院を目指し、ノートに退院したらやりたいリストを作り、欲しい服の載った雑誌を切り抜いて貼ったりしていた。
排便、排尿、飲水量のチェックもまめに記載していた。

しかしGWに退院することはかなわず、その頃より明らかに彼女の意欲は減退していった。

6月15日、姉の容態が再び急変したと母より連絡を受けた。
わたしがかけつけた時は、ICUから個室に移り、挿管されて人工呼吸器に繋がれている姉の姿があった。
ベットサイドでは、旦那さんが姉の様子を、固唾をのんで見守っていた。

一命をとりとめたが、状態が悪く、人工呼吸器は外せない状態という。

途中姉が苦しそうにむせ混み、それをきっかけに呼吸状態がまた一段と悪くなり、その時点でもう助かる見込みは0に近いことを悟った。

およそ2日間、残酷な時間を過ごした。
その間旦那さんは寝ずの番をし、ずっとベットの側で彼女の手を握りながら横顔を見つめ続けていた。

そしてとうとう6月18日の早朝、
彼女は最後の一息をすっと吸いきり、それきり呼吸を止めた。

モニターの心電図は水平線を描いて、ピーというアラームがけたたましくなった。

「お身体を綺麗にさせていただきますので、一旦部屋をでてお待ちください」
と看護師さんに言われ、部屋を出た。

ふたたび部屋に入った私たちを驚かせたのは、挿管チューブを外した姉の顔だった。
なんと、口角が上がり、満面の笑みを浮かべているのである。

霊安室に運ばれて花を供えられている間も、ずっとその笑顔のままだった。
どうしたらこんなに晴れやかな顔ができるのだろうと思った。

彼女が書き初めで『使命』と書いていたように、彼女には何かしかの与えられた使命があって、そしてそれを達成したことが、このような晴れやかな表情をさせたのだろうか。

アドラーの心理学で有名な、心理学者のアルフレッドアドラーがいうには、人生においては3つのタスクがあるという。

1つは、仕事のタスク。
2つ目は、交友のタスク。
そして最後は、愛のタスクである。

人によっては、長く生きてさえこの3つのタスクを達成できない人すらいる。
彼女はたとえ短い人生であっても、これらの3つのタスクを立派にやり遂げた。
最後に最高の笑顔を見せてくれたのも、きっとその証だったであろう。

わたしは、わたしの姉の人生を、誇りに思う。

grape Award 2017 応募作より 『人生のタスク』
氏名:菅野未知子

『心に響く』エッセイコンテスト『grape Award』

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[構成/grape編集部]

出典
grapeアワード

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