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隣に住む一人暮らしのおばあさん 人見知りの中学生が、お菓子を届けに行くと…?

By - grape編集部  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

2021年8~10月に開催された、エッセイコンテスト『grape Award 2021』。

『心に響く』というテーマを軸に、コロナ禍により変化した生活スタイルが続く中、自分の周りであった心温まるエピソードや、心が癒されるような体験談を募集しました。

寄せられた376本もの応募作品の中から、最優秀賞が1作品、タカラレーベン賞が1作品、優秀賞が2作品、選ばれています。

今回は、応募作品の中から最優秀賞に選ばれた『お菓子便』をご紹介します。

『はなちゃん』は我が家の次女。絵とお菓子作りが大好きな中学生だ。器用な姉をちょっとリスペクトし、4つ下の弟を小さなお母さんのように可愛がってくれる。お父さんが頑張っていると「ありがとう」のお手紙をこそっと置き、お母さんが忙しい時、さり気なく手伝ってくれる。そんな優しい娘だ。

でも、苦手なこともある。ちょっぴり人見知りで、大勢の中にいるのは得意じゃない。

特にコロナ禍でしばらく休校になり、いつの間にか進級して新しいクラスになった時、心がその状況について行く為に、いつも以上に頑張らなければいけなかった。

みんながそれぞれ苦しい思いをしている時期だが、彼女もこのような形で、コロナによる皺寄せがきていた。

唯一、ほっと一息つけるお菓子作りは、学校や心のざわざわとしたものをすうっと収めてくれる、ささやかな楽しみになっていた。出来上がりを想像しながらワクワク、工程ごとに夢中になる。

そのうち甘い香りが部屋中に満たされ、出来上がりの可愛い姿を愛でながらうっとり。その後も、家族と一緒に食べて、みんなで「おいしい!」を共有できるのだ。彼女にとってこれほど癒しになるものはないだろう。

そんな時、ふと「隣のおばあちゃん大丈夫かな?」と呟いた。ちょうど最初の緊急事態宣言が出た頃だ。「マスクがない」とみんなが騒いでいたあの頃。

我が家も必要な買い物以外はほぼ家で過ごし、今以上に落ち着かない日々だったことを覚えている。

その『隣のおばあちゃん』とは、一人暮らしのご近所さん。田舎の祖父母よりもご年配だ。いつも庭のお花を大切に育てながら、丁寧に暮らしていらっしゃる。

でも、コロナ禍でお互い家に閉じこもり、様子を伺うことがほぼなくなった。確かに気になる。すると、「そうだ、お菓子を作っておばあちゃんに持っていこう!」と提案してくれた。

早速、バナナケーキを焼いてくれた。そして、おばあちゃんが食べきれる量を包んで、得意な絵付きの手紙も添えて。

それを私に託すのかと思いきや、「行ってきまーす!」と出て行ったではないか。私はちょっとびっくりした。こういう年頃だと、ご近所さんにわざわざ会いに行くなど、面倒だったり、恥ずかしいものかと勝手に思っていたからだ。

しかも、ちょっと人見知りな『はなちゃん』なのに。

帰ってくると、手には小さな花束が。まるで孫のように喜んでくれ、おばあちゃん自慢の庭からお花を見繕ってもらったようだ。

「キッチンに飾ると、お料理しながらふわっといい香りがするよ。」と。

それからは時々、多めにお菓子を作った時は「おばあちゃんに持っていこう」と届けに行く。また、逆に採れたての大葉やお花が玄関扉にかかっていたり、お菓子の感想が電話で届くこともある。

こんなおばあちゃんの喜ぶ顔も、元気な顔もほっとする。少しの立ち話も、素朴な花にも癒される。何となく落ち着かない心もさーっと静かになっている、と思う。

きっと『はなちゃんのお菓子』は、食べる相手に温かい気持ちをお裾分けしているだけでなく、それが自分にも戻ってきているような気がする。そして、見守っている私まで心がほかほかほこほこしてくるのだ。

学校の気詰まりな空気や、今までと違う日常に疲れていた娘。でも、お菓子作りで、周りの人に優しい気持ちを届けながら、自分自身少しずつ癒されていたのではないだろうか。今はマイペースで受験勉強に励んでいる。

そして、『はなちゃんのお菓子』は、私達にもご近所さんとゆるい繋がりをもたらしてくれた。今までと同じ場所なのに、この町が私達家族を迎えいれてくれている、そんな感じだ。はなちゃんの小さな勇気がふわっと温かいものを運んできてくれたようだ。

grape Award 2021 応募作品
タイトル:『お菓子便』
作者名:笹井 純子

※この作品は、31分45秒からご聴取いただけます。

ほかの受賞作品も知りたい人は、こちらをご覧ください!


[文・構成/grape編集部]

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