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子どもだけが見抜いていた本物のケダモノ 映画『サバービコン』を観て感じたこと

By - 吉元 由美  公開:  更新:

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© 2017 Paramount Pictures. All rights reserved.

吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

サスペンスかコメディか?『サバービコン』を観てきました

これはサスペンスなのか。ブラックコメディ、サイコホラーか。それとも社会風刺なのか。

ジョージ・クルーニーが監督を務めた『サバービコン』の試写を観てきました。1950年代、古き良きアメリカの新興住宅地サバービコンに、アフリカ系アメリカ人、マイヤーズ家が引っ越して来る。そこから平和だった(平和という仮面を被っていた?)街がざわめきだします。一家をめぐる街の騒動と、同時進行で隣のロッジ家に恐ろしい重大事件が次々と起こります。

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このパラレルで進んでいくエピソードがどこでも交わらないところに、この映画の狙いがあるのでしょうか。人種差別問題と幸せそうに見える白人一家のメッキがぼろぼろとはがれている様は、まさに現代社会を映し出しているようです。

1950年代、郊外にマイホームを持つというアメリカン・ドリームは、白人のコミュニティだからこそ成立していていました。そこにアフリカ系アメリカ人が移り住んだことを、彼らは絶対に容認することはできない。あからさまな嫌がらせだけではなく、彼らは暴徒化し、車を燃やし、家に物を投げ込みシュプレヒコールを上げます。この暴動は、ペンシルヴァニア州レヴィットタウンで起きた事件の実話を元にしています。

一方、隣のロッヂ家には強盗が入り、妻が殺され…次々と事件が起こる。1950年代の男性像に近づけるために体重を増やしたというマット・デイモンは、不機嫌なビジネスマン、夫、父親を演じています。しかし、話が進むにつれ、その姿が滑稽に見えてくる…。サイコ…よく観ていくとコメディのような展開になってくる…。抑制的に滑稽さを演じている、さすがの演技です。

はらはらするばかりのストーリーですが、唯一わくわくするのは1950年代のアメリカの車やファッションでしょう。少し年代は後ですが、まさに私たちの年代が憧れて観ていたTVドラマ『奥様は魔女』を彷彿とさせるライフスタイルが描かれています。改めて考えてみると、そんな憧れのライフスタイルの前提には、絶対的な白人至上主義があり、そこを侵すものは徹底的に排除するという根深さがあったのでした。そういえば『奥様は魔女』にも黒人もアジア系も登場しません。当時流行っていたホームドラマの向こう側には、アメリカの『白人家族』の理想の生活が描かれていたのです。

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一方、欲望が人間を豹変させ、泥沼へと突き進むロッジ家。まさにケダモノにケダモノが集るといった様相の中で、息子のニッキーだけが本物のケダモノを見抜いていました。暴動に巻き込まれたアフリカ系アメリカ人のマイヤーズ家と、狂気の連鎖の中にあるロッジ家との接点は裏庭の明るい芝生と、キャッチボールをする2人の少年だけ。あえて接点を持たせなかったところに、制作者の意図があるように思います。ただ、終わり方に救いを感じられなかったのが、私としては残念でした。

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さて、この映画はサスペンスなのか、ブラックコメディなのか。サイコホラーか。それは観た人に委ねられているのかもしれません。

サバービコン 予告編

狂気の沙汰であり、愚か以外の何ものない姿をどうとらえるのか、そして、欲望がどのように人間を豹変させていくか。いろいろな見方ができる内容なだけに、評価が分かれそうな感じがします。

サバービコン 仮面を被った街

5月5日 TOHOシネマズ日比谷ほか 全国ロードショー
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES

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[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
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出典
映画『サバービコン 仮面を被った街』本予告

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