喪失の悲しみを小脇に抱えながら、癒やしていくための『物語』を心に描く
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
「癒される」ということ
母が亡くなった年のお盆のこと。迎え火の炎が小さくなり、おがらが残り火の中で静かに炭になっていったとき、父がポツリと言いました。
「ママ、帰ってきたな」
父の中にいろいろな物語があり、心の中のつぶやきがふっとこぼれたような。私も妹たちも胸の中で、それぞれの想いを噛み締めていた、そんな初盆の入りでした。
いなくなる、ってすごいことだなあと思うのです。いま、ここで生きていた人が、いなくなる。朝、「行ってらっしゃい」「行ってきます」と言葉を交わし、そのまま会えなくなることもある。
脳梗塞で言葉が出なくなった母に「明日、また来るね」と声をかけると、母は弱々しくなった手でぎゅっと私の手を握り返しました。
そして置き去りにされる子どもみたいな顔をして、病室を出る私を見ていました。翌日会ったときには、もう手を握り返してくれることはありませんでした。
亡くなった人を思うとき、なぜか空を見上げるものです。天に昇る。天国は空の上にある。そんなイメージがあるからでしょうか。
「肉体を離れた人の魂は素粒子となり、空気中に溶け込んでいるのではないか」
そんな解釈を聞いたことがあります。(もちろん『エビデンス』などありませんが)『千の風になって』の歌のように、風になって愛する人の元へ吹き渡っているのかもしれません。
喪失の悲しみを、人はさまざまな『物語』を心に描いて乗り越えていきます。「乗り越える」というのは違うでしょうか。
悲しみを小脇に抱えながら、癒していくための『物語』という方が言い得ているかもしれません。その中で私たちが見出していくのは愛なのではないか。
その愛によって、私たちは癒され、悲しみではない涙を流すことができるのではないか、と思うのです。
母が亡くなった後、あらゆるものに母の愛が宿っていることに気づきました。写真の中に、私という存在そのものの中に。
そして、6月に15歳のわんこを見送り、これ以上ないのではないかと思う喪失感の中で、『ただただ愛すること』『いつも一緒にいると感じること、信じること』『エゴを手放していくこと』……多くのことを学んでいます。
ぽっかりと空いた心の穴を愛と感謝で満たしていく。『喪の仕事』は自身の心の死と再生の道程であり、『癒し』のプロセスでもあるのです。
※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」