「なんて世界は美しい!」心も身体も落ちこんだ日だから気付けたこと
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
なんて世界は美しい! 〜心も身体も落ちこんだ日に感じたことから
ああ、なんて世界は美しいのだろう!
道に落ちているゴミも、埃だらけの車も、雑踏の中で無表情にすれ違う人々も美しい。街を歩いていて、目に見える何もかもが美しく感じた瞬間がありました。なぜゴミや、埃だらけの車が美しいのか。それは、そこには命があるからです。ゴミを捨てたのは人間、埃だらけの車に乗るのも人間。そこには命のぬくもりがあります。人間だけではない、たくさんの命のぬくもりにあふれているこの世界、自分もその一部。そんなあたりまえのことがとてつもなく有り難く、感動的だったのです。
その日、少し落胆するような出来事があり、その上体調も崩していて、八方塞がりのような状態でした。こんな時、無駄に落ち込まないことが大切だと思いながらも、心の中で足を滑らせてしまいそうな自分がいました。 自分の命があと一ヶ月だとしたら、自分は何をするだろう?街を歩きながら、ふとそんなことを思いました。
片付けておきたいことも、片付けておきたいものもたくさんある。お金に関することは、残った家族に分かるようにしておこう。作品も整理しておかねば。走り書きの文章を書いたノートは捨てよう。読まれたらはずかしい。書籍、CD類も処分してしまおう。大好きな人たちひとりひとりに手紙を書こう。行きたい場所へ行く時間はないかもしれない。でも、青い海でもう一度ぽっかりと浮かびたいな。
そんなことを思いめぐらせながら歩いていた時、目の前の世界の美しさに気付いたのです。それも、普段であれば決して美しいと思わないものでさえ、命の輝きを放っているように見えました。ああ、世界をこんなふうに見ることもできるのだと、まだ開いていない扉がそこにあるのを感じました。
目に見えていることがすべてではない。それぞれの人の「目」を通して見えるものは、ひとつとして同じものはない。経験や価値観、その人の感性といったフィルターを通して見えるものは、その人だけのものです。唯物的な考えをする人と、そうでない人が捉えている世界は違うものになるでしょう。
自分がどんなフィルターをつけて世界を見ているか。ささやかな経験でしたが、落ち込んで、体調が悪かったあの日に見えたのは、あらゆるものに宿る命の輝きでした。それが、自分の時間に限りがあるということを実感したフィルターを通して見た世界だったのです。
心の角度を少し変えるだけで、見えてくるもが変わる。フィルターをつけて世界を見ていることを自覚すると、新しい発見があるのです。たとえば、「こだわっていること」が、心や行動を不自由にしていることがあるのではないでしょうか? 「〜あるべき」「〜しなくてはならない」という決め事が、視野を狭くしているかもしれません。
「あと一ヶ月の命だとしたら…」気持ちも身体も落ち込んだ私が見た世界は、「それでも生きていく」ことの尊さを垣間見せてくれました。自分のフィルターに気付き、そして時には違うフィルターをつけて眺めてみる。それは、新しい価値観に出会う大きなきっかけになるのです。
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作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」