人は、つらい体験を乗り越えるために『物語』を必要とする
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
きっと12月の風になって
日差しの柔らかさと、冷たい風と。年の暮れのお墓参り、小高い丘の上に建つ実家のお墓からは遠く相模湾を見渡せます。
時折、ふっと吹く風が冷たく、冷たくなった手を思わずさすってしまいます。
春、秋のお彼岸と12月、父と妹二人とお墓参りをし、帰りにお蕎麦を食べて道の駅に寄り、新鮮な野菜を買う。これがいつの頃からか我が家の恒例となりました。
人は、つらい体験を乗り越えるために『物語』を必要とすると、心理学者の河合隼雄先生は述べています。
大切な人が旅立ったとき、困難の中にあるとき、その喪失感や悲しみから自分を守るような『物語』を心の中で作るのです。
数年前、大好きな友人が亡くなったとき。私はどうしても受け入れられなかったのですが、友人の人生がどれだけ幸せだったかということに思いを馳せました。
才能を生かして生きられたこと。多くの人に愛されて、多くの人を愛したこと。友人の人生が幸せだったと思うことで、私はどうにか受け入れることができたのです。
私たちは知らず知らずのうちにこのような『物語』を作っている。生きていくための、生き延びるための『物語』は、ある意味、生命力と言ってもいいのかもしれません。
新井満さんが日本語詞をつけた歌『千の風になって』は、人の心に浸透するように広まっていきました。
私はお墓の中にはいません。千の風になって吹き渡っています……。ああ、そうか。大切な人は千の風になってこの空を吹き渡り、いつも姿を変えながら私のそばにいるのだ。
この歌は、人の心の中で『物語』になったのだと思います。姿を変えて私たちのそばにいる……そのことを証明することはできないので『事実』ではないかもしれない。
でも、それはそれぞれの人にとって『真実』なのです。
「みんなでお参りできたから、ママも喜んでるね」
妹がそう言ったとき、(あら、ここにはいないわよ)と母の声が聞こえたような気がしました。
空を見上げると、12月の青空に半年前に旅立った愛犬が駆けているような形をした雲が浮かんでいました。
「ここにいるよ!」とでも言うように。これも私が作った『物語』なんだなあと思いながら、雲がちぎれていくまで空を見上げていました。
※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」