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「命ってどこにあるの?」 医師・日野原重明さんの『答え』に、105年分の重み

By - grape編集部  公開:  更新:

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「いのちってなんでしょう?そう、生きているということですね。
では生きているとは、どういうことだと思いますか?
そして、いのちはどこにあると思いますか?」

書籍「いのちのおはなし」 ーより引用

95歳の現役医師が、10歳の子どもたちに問いかける場面から始まる絵本『いのちのおはなし』

教育現場でも取り扱われているこの本の著者・日野原重明さんは、実際に小学校を訪問し『いのちについて考える授業』を数多く行ってきました。

命、とは心臓のことでしょうか。それとも、感覚的な言葉になりますが『心』のことでしょうか。『頭』だと答える人もいるかもしれませんね。

日野原さんが出した答えは、子どもたちを驚かせるものでした。

「いのちは、きみたちのもっている時間だといえますよ。」

書籍「いのちのおはなし」 ーより引用

命は時間。日野原さんがその考えに行き着くまでには、医師としてのさまざまな経験がありました。

日野原重明さん 医師としての生涯

医療界の第一人者として生涯現役を貫いた日野原さん。

(1986年撮影)

2017年7月18日に105年の生涯に幕を下ろした日野原さんは、『医療界の牧師』とも称され、多くの医師や患者に慕われていました。

また、2000年に設立した『新老人の会』では「高齢化社会となったいまこそ、一人ひとりが生きがいを持ち、人生経験を社会に還元していく」という、新しい高齢者の生きかたを提唱しました。

自身が『活躍する高齢者』の象徴として、精力的に活動していたのです。

誰よりも尽くす 『地下鉄サリン事件』

1995年3月、オウム真理教による大規模テロが起きた当時、聖路加国際病院の院長を務めていた日野原さん。

ことの重大さをいち早く判断し、病院を開放するように指示したといいます。

約640人にも及ぶ被害者を受け入れ、処置を施した日野原さんの適切な判断は、多くの命を救いました。

地下鉄サリン事件(1995年3月20日)

「自分のためにでなく、人のために生きようとする時、その人は、もはや孤独ではない」

日野原さんは、そんな名言を残しています。日野原さんが『患者本位』の医療を推進する1つのきっかけとなったのは、1970年の『よど号ハイジャック事件』でした。

人生観を変えた 『よど号ハイジャック事件』

1970年3月に、『よど号』が赤軍によりハイジャックされた際、日野原さんは出張のために偶然その便に搭乗していました。

よど号ハイジャック事件(1970年4月2日)

「乗客が混乱する中、自身も死の危険性を身近に感じつつ、緊張する機内をなごませた」というエピソードもあり、そこからは日野原さんの柔らかい人柄がうかがえます。

日野原さんは、無事解放された後の記者会見で、赤軍のメンバーに関し「彼らは学生だった」などのコメントを残しています。

「あの当時の我々にとって、日野原さんは理解者のように思えました。我々の間違った行いを正してくれた恩人です」

当時のメンバーは、日野原さんの訃報にそうコメントを寄せたそうです。日野原さんの持つ『他者を受け入れる雰囲気』は、彼らにとって1つの希望に見えたのかもしれません。

日野原さんはこの事件を経て「命とは与えられたもの。これからは人のために生きよう」と誓ったのだといいます。

『命は時間』 だからこそ

日野原さんは絵本のあとがきに、こんな言葉を残しています。

「いのち」は、だれにも平等にあります。1日1日の時間のなかに、いのちがあるのです。

その時間をみんなのいのちとして、大切にしてほしいのです。

いのちを無駄にしないということは、時間を無駄にしないことになります。

人が生きていくうえで、もうひとつ大事なことがあります。それは「こころ」です。

おたがいに手をさしのべあって、いっしょに生きていくこと。こころを育てるとは、そういうことです。

自分以外のことのために、自分の時間をつかおうとすることです。

書籍「いのちのおはなし」 ーより引用

「誰かの時間を自分に使ってもらっていること」のありがたさや、「自分の時間を誰かに使うこと」の大切さ。

自らが『生涯現役』として多くの人に時間を使い、医療の充実に尽力した日野原さんだからこそ、出てきた考えかもしれません。

「私は、生きがいとは自分を徹底的に大事にすることから始まると信じている」

自分を大切にし、さらには人を大切にすることの重要性を、生涯通して伝えた日野原さんの生きざまは、今後も多くの人に影響を与えることでしょう。

参考文献:講談社 日野原重明 著 『いのちのおはなし』


[文・構成/grape編集部]

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