【『最愛』感想 8話】献身と表裏にある孤独・ネタバレあり By - かな 公開:2021-12-06 更新:2022-01-12 かなドラマコラム井浦新吉高由里子最愛 Share Post LINE はてな コメント Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。 2021年秋スタートのテレビドラマ『最愛』(TBS系)の見どころを連載していきます。 かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。 井浦新を初めて見たのは2002年に公開された映画『ピンポン』の時だった。もちろん映画そのものも素晴らしかった。 しかし私も一緒に見た友人たちも、当時ARATA名義で活動していた井浦新のクールで端正な佇まいにぼうっとなってしまい、彼がデザインしている洋服を買えないのに見にいってしまうほどだった。 2012年の大河ドラマ『平清盛』(NHK)の崇徳上皇(すとくてんのう)、そして2018年に放送されたテレビドラマ『アンナチュラル』(TBS系)の中堂系(なかどう・けい)。 孤独を核にした人物を演じるとき、井浦新は硬質で美しい光を放つ。それが無口な人物でも、狂乱していても、粗暴な男でも。 もちろん柔和なインテリである今作の加瀬賢一郎もである。 画像を見る(全6枚) 視聴者の高い満足度を維持しながら物語後半に入った『最愛』(TBS金曜22時 主演・吉高由里子)。 優れたサスペンスドラマにはそれぞれに独自のカラーがある。 展開の圧縮したような速さや、ドラマ一話分の中で鮮やかに起きるどんでん返し、複雑かつ、ふんだんにはりめぐらされた伏線、定型をなぞった爽快感のある展開。 今作のそれは、マトリョーシカや玉ねぎのようにひとつ剥いて、確かに剥いたはずなのにまた同じ形のものが現れる奇妙なもどかしさだと思う。 しかし全くの無駄ではなく一回り形が小さくなって、何かが確実に絞り込まれていく。 他のサスペンスドラマにはない不思議なじりじりした感覚であるし、これは全体を通して、しかも集中して見てもらう前提で作られたドラマだと思う。 途中にほとんど解放感が無いことも含めて、これは相当な覚悟と見る側への信頼感を持って作られた作品なのだろう。 今週、ようやく真田ウェルネス専務の後藤(及川光博)によって隠されていた真田グループの裏金の存在と、その出所が明らかになった。 介護施設の入所者から集めた慈善団体への寄付金を複雑なペーパーカンパニー経由で流用という、絶妙な生々しさである。 裏金を作った動機が私利私欲ではなく、会社のためだったと後藤が会社の弁護士である加瀬(井浦新)に訴えかけるシーンの荒涼とした切なさに絶句する。 ここまでほぼ感情を押し殺して不気味な男を演じてきた及川光博が、感情を爆発させる場面である。 「あの場所(会社)がわたしの全てだ。他には何もないんだ。何も、ないんだよ」 後藤の言葉に気圧されたように、一瞬加瀬が黙り込む。 逃げ去る後藤をなすすべなく見送りながら「わたしの、すべて」という言葉を反芻(はんすう)する加瀬の胸にどんな感情が行き来しているのか。あとをひく印象的な一瞬である。 弁護士という職業自体、本来は白黒つけられない複雑なものに何とか白黒をつけて解決するものだが、真田ホールディングスや真田ウェルネスのような、介護や医療、人の老いや生死に直結した企業の法務が仕事ならば、なおのこと扱うのは善悪の単純ならざるグレーなものばかりなのではないかと思う。 人の病気が治るということは、シンプルに善だ。今まで治らなかった病気を治すものを作りたいという梨央(吉高由里子)の情熱が、加瀬の人生にとってどれほど眩しく救いであるか。 「世界が良い方に変わっていくのを見たい」と、ぽつりと語った言葉がそれを表している。 梨央にとっても、加瀬は眼前の創薬だけに没頭しがちな自分と社会を繋ぐ堅実な『輪』であり人生の一部なのだろう。 だが、彼女にとって加瀬は人生の大切な一部だけれども、すべてではないし、おそらく大半でもないはずだ。 ふと、加瀬という男にとって真田梨央は人生のどのくらいの割合なのだろうと考えてみる。今のところ、まだそれを想像させる手がかりは少ない。 今週のラストで、渡辺昭(酒向芳)殺害の現場にあったペンの出所が明らかになる。 宮崎大輝(松下洸平)が、梨央や優との縁が切れないところから連鎖して、それが明らかになる過程はいかにも『最愛』という名のドラマらしい、やるせなさと高揚である。 たった五人だけが持っている特注品のペン。 誰が、とそれをカウントしていく時、これまでかかわり続けてはいても、犯人としての範疇からはずっと外れているかのように見えた一人が炙るように浮かび上がってくる。 どうか、巧妙なミスリードであると思いたい。 同じ形のままでも、間違いなく事件は絞り込まれている。 何かがむき出しになり、それぞれが自分の欲や感情を露わにして動き出そうとしている。 この物語を見守ってきた私たちも、もう間もなく真実の形にたどり着くだろう。 この記事の画像(全6枚) 最愛/TBS系で毎週金曜・夜10時~放送 ドラマコラムの一覧はこちら [文・構成/grape編集部] かな Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。 ⇒ かなさんのコラムはこちら 快挙を成し遂げた狩野英孝、帰国便の搭乗券をよく見ると… 「さすがJAL」の声ホノルルマラソンから帰国する狩野英孝さんに、JALが用意したサプライズとは…。 ロケで出会う人を「お母さん」と呼ぶのは気になる ウイカが決めている呼び方とは?タレントがロケで街中の人を呼ぶ時の「お母さん」「お父さん」に違和感…。ファーストサマーウイカさんが実践している呼び方とは。 Share Post LINE はてな コメント
Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2021年秋スタートのテレビドラマ『最愛』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
井浦新を初めて見たのは2002年に公開された映画『ピンポン』の時だった。もちろん映画そのものも素晴らしかった。
しかし私も一緒に見た友人たちも、当時ARATA名義で活動していた井浦新のクールで端正な佇まいにぼうっとなってしまい、彼がデザインしている洋服を買えないのに見にいってしまうほどだった。
2012年の大河ドラマ『平清盛』(NHK)の崇徳上皇(すとくてんのう)、そして2018年に放送されたテレビドラマ『アンナチュラル』(TBS系)の中堂系(なかどう・けい)。
孤独を核にした人物を演じるとき、井浦新は硬質で美しい光を放つ。それが無口な人物でも、狂乱していても、粗暴な男でも。
もちろん柔和なインテリである今作の加瀬賢一郎もである。
視聴者の高い満足度を維持しながら物語後半に入った『最愛』(TBS金曜22時 主演・吉高由里子)。
優れたサスペンスドラマにはそれぞれに独自のカラーがある。
展開の圧縮したような速さや、ドラマ一話分の中で鮮やかに起きるどんでん返し、複雑かつ、ふんだんにはりめぐらされた伏線、定型をなぞった爽快感のある展開。
今作のそれは、マトリョーシカや玉ねぎのようにひとつ剥いて、確かに剥いたはずなのにまた同じ形のものが現れる奇妙なもどかしさだと思う。
しかし全くの無駄ではなく一回り形が小さくなって、何かが確実に絞り込まれていく。
他のサスペンスドラマにはない不思議なじりじりした感覚であるし、これは全体を通して、しかも集中して見てもらう前提で作られたドラマだと思う。
途中にほとんど解放感が無いことも含めて、これは相当な覚悟と見る側への信頼感を持って作られた作品なのだろう。
今週、ようやく真田ウェルネス専務の後藤(及川光博)によって隠されていた真田グループの裏金の存在と、その出所が明らかになった。
介護施設の入所者から集めた慈善団体への寄付金を複雑なペーパーカンパニー経由で流用という、絶妙な生々しさである。
裏金を作った動機が私利私欲ではなく、会社のためだったと後藤が会社の弁護士である加瀬(井浦新)に訴えかけるシーンの荒涼とした切なさに絶句する。
ここまでほぼ感情を押し殺して不気味な男を演じてきた及川光博が、感情を爆発させる場面である。
「あの場所(会社)がわたしの全てだ。他には何もないんだ。何も、ないんだよ」
後藤の言葉に気圧されたように、一瞬加瀬が黙り込む。
逃げ去る後藤をなすすべなく見送りながら「わたしの、すべて」という言葉を反芻(はんすう)する加瀬の胸にどんな感情が行き来しているのか。あとをひく印象的な一瞬である。
弁護士という職業自体、本来は白黒つけられない複雑なものに何とか白黒をつけて解決するものだが、真田ホールディングスや真田ウェルネスのような、介護や医療、人の老いや生死に直結した企業の法務が仕事ならば、なおのこと扱うのは善悪の単純ならざるグレーなものばかりなのではないかと思う。
人の病気が治るということは、シンプルに善だ。今まで治らなかった病気を治すものを作りたいという梨央(吉高由里子)の情熱が、加瀬の人生にとってどれほど眩しく救いであるか。
「世界が良い方に変わっていくのを見たい」と、ぽつりと語った言葉がそれを表している。
梨央にとっても、加瀬は眼前の創薬だけに没頭しがちな自分と社会を繋ぐ堅実な『輪』であり人生の一部なのだろう。
だが、彼女にとって加瀬は人生の大切な一部だけれども、すべてではないし、おそらく大半でもないはずだ。
ふと、加瀬という男にとって真田梨央は人生のどのくらいの割合なのだろうと考えてみる。今のところ、まだそれを想像させる手がかりは少ない。
今週のラストで、渡辺昭(酒向芳)殺害の現場にあったペンの出所が明らかになる。
宮崎大輝(松下洸平)が、梨央や優との縁が切れないところから連鎖して、それが明らかになる過程はいかにも『最愛』という名のドラマらしい、やるせなさと高揚である。
たった五人だけが持っている特注品のペン。
誰が、とそれをカウントしていく時、これまでかかわり続けてはいても、犯人としての範疇からはずっと外れているかのように見えた一人が炙るように浮かび上がってくる。
どうか、巧妙なミスリードであると思いたい。
同じ形のままでも、間違いなく事件は絞り込まれている。
何かがむき出しになり、それぞれが自分の欲や感情を露わにして動き出そうとしている。
この物語を見守ってきた私たちも、もう間もなく真実の形にたどり着くだろう。
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