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【『ファイトソング』感想7話】一瞬の彗星が思い出を刻む・ネタバレあり

By - かな  公開:  更新:

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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2022年1月スタートのテレビドラマ『ファイトソング』(TBS系)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

相手が話さなくても、何か苦境にあると察してしまう時がある。話してくれないことを寂しく感じるけれども、理由があるのだろうと思う。

少し困るのは、相手の苦境を誰か他の人から聞いたりする一方で、本人が自分には話してくれなかったりする時だ。自分は話すに値しないのかと更に落ち込む。

でも、少し立ち止まって考える。心が深いダメージを負ったとき、苦しみについて語ること自体にもエネルギーが必要で、そのエネルギーも残っていないほどの消耗だったら。

瀕死、ライフは1。何かに躓いただけでゲームオーバーしそうなほどの重傷。

心の消耗は、外からは見えない。どれだけボロボロかは、顔だけ見ても分からない。

自分の病気のことをなかなか言い出せないヒロインの姿に、ふとそんなことを考えた。

物語が後半に入った『ファイトソング』(TBS系火曜22時 主演・清原果耶)。

ようやくヒロインの木皿花枝(清原果耶)は、この先、耳が聞こえなくなるかもしれない運命を周囲に打ち明けた。

「言うとさ、口にしたら、嫌な現実がもっと本当になっちゃう気がして」

その痛切な言葉に尽きると思う。相手が理解してくれればくれるほど、滑らかな鏡にうつすように、言葉にして人に伝えれば『それ』ははっきりとした輪郭で跳ね返ってくる。

一番助けを必要とするひとたちは、時にこうして言葉を飲み込んでしまうのだと思う。

だが、幼なじみの夏川慎吾(菊池風磨)をはじめ、そんな花枝の告白を受け止めた面々が、おそらくショックを受けつつも口に出さず、安易な慰めも口にせず、ただ「分かった」とだけ表明して、めいめい一人で考え込むシーンがとてもいい。

直美、迫、慎吾、凜。花枝の思い出作りのことを理解して支えつつ、花枝が可哀想にも惨めにもならないように慎重に距離感を保っている。

見ている側としては、花枝は思い出作りの恋の相手である春樹(間宮祥太朗)にも、自分の病気のことを正直に言えばいいのにとは思うけれども、これからハンデを背負って生きていくと思えば、もう決して安易に自分の人生に誰かを巻き込めないと思っている花枝の決意も分かる気がする。

何せ家族同然の幼なじみにすらなかなか言えなかったのである。

いや、逆に春樹や慎吾が真剣に花枝を想い、共にある未来を描こうとすればするほど、花枝のほうは自分の人生に巻き込めないという決意を固めているのかもしれない。

そんな花枝のタイムリミットを知らない春樹は、一発屋を脱して曲を作るために、『あの人はいま』的な企画のラジオ番組に出ることを決意する。

マネージャーの弓子(栗山千明)も、かつてのバンド仲間の薫(東啓介)もシャイな春樹が嫌な思いをするだろうと心配するが、今後の音楽活動に繋がるからと、春樹は収録に出かけていく。

物語の最初、冷え冷えしているように見えていた春樹の周辺の人間関係が、物語の深まりとともに不器用で優しい人たちの集まりだと自然に分かっていく過程は岡田脚本らしさに溢れている。

一発屋として自虐ネタを求められたラジオの収録で、春樹は花枝との出会いのエピソードを披露して場を盛り上げることに成功する。

「一発屋でも凄いことなんだなって、今、思ってます。一発屋になれてよかった、とも思ってます」

曲を作るために引き寄せた相手が、曲があったからこそ出会えた大切な誰かになった。

中島みゆきの名曲のように、人生という長い縦糸に絡む無数の出会いの横糸が、ひとの豊かな生き方を織るのなら、誰もが知る一発屋のヒット曲は、太く長い尾を持つ巨大な彗星のようなものかもしれない。

それは無数の誰かの人生に一瞬交錯して通り過ぎていく。華やかな彗星が尾をきらめかせて通過するとき、普段は星空を見ない人たちも夜空を見上げる。

彗星はわずかの時間で消えるけれども、わくわくしながらそれを見た記憶は長く残り、沢山の誰かの人生を豊かにする。

春樹のラジオの収録はうまくいったが、今回のラストで、花枝はいよいよ耳の病の症状で倒れてしまう。手術の日も近い。二人のタイムリミットはもうすぐだ。

自分の人生が受けた不条理な悲しみの分だけ、花枝はそれが春樹の力になればいいと思っている。もう一度、彗星を走らせる原動力になりたいと願っている。

それは叶うだろうか。そして二人の恋の着地はどうなるのか、終盤を見守りたいと思う。


[文・構成/grape編集部]

かな

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