「パパは1人で生きていけないから」 母を追うように亡くなった父、夫婦の絆【grape Award 2017 入賞作品】
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- grapeアワード
『夫婦』
7年前に亡くなった両親。
長年がんで闘病した後に自宅で看取った母。
そんな母の四十九日の準備をしている時に、突然倒れて6時間後に亡くなった父。
父と準備した母の四十九日を延期して、夫婦で納骨、四十九日を行ったのがついこの前のように感じます。
当時は、後始末やいろいろな手続き、やることが多くてしばらくの間実感がわかなかった気がします。7年たった今、ことあるごとに思い出す2人の言葉、2人の姿。
がんで闘病していた母に、医者から告げられた余命宣告は伏せていました。それでも、今思うと、母は自分の命が後どのくらいなのか、感じ取っていた気がします。
母が一番気にしていたのは、父のこと。我が家は娘しかいないので、残された父が1人で生きていくことがとても心配だったんだと思います。父の話が出るたびに、母はこう言ってました。
「どんなことがあっても、パパより長生きしなくちゃ。がんばらなくちゃ。1日でも、1時間でもパパより後にいかなくちゃ。それだけを願う。パパが1人になったら、あの人は生きていけない。精神的にボロボロになって、お酒に飲まれ、きっと娘たちに迷惑かける。ママ、がんばらなくちゃ」
そんな父は、『母命』の人でした。独り言でも母の名前を言うくらい、母にぞっこんのまま70歳を超えていました。母が自宅療養になってから、介護は娘たちが交代でつきそいました。
父は近くにいて、手持無沙汰のようでしたが、植木の手入れをするようになりました。庭には花が咲き、水やりをして毎日世話をしていた父。花が枯れたら、また次の花。毎日自転車で植木店にいって花を買い、種をまき、花が途絶えないように手入れをしていました。
「パパってお花好きだったっけ?」
妹が聞いた時、父の答えはこうでした。
「見えるところに花があると、ママが喜ぶから」
亡くなる3日前まで、みんなと普通に話をして、普通に笑っていた母。家族全員が見守る中、息を引き取りました。
その後の父は、母をきちんと見送らなければならないという責任感からか、いつも以上にしゃんとしていました。葬儀の手配、お悔みに訪れてくれる友人やご近所さんの対応。「恥ずかしくない葬儀にしたい」そう言って精一杯のことをしていました。
お通夜と葬儀を終え、四十九日の準備期間だったある朝、姉からの電話で目が覚めました。
「パパが倒れた」
脳内出血。救急で運ばれた病院の医師から、頭の中の半分くらい、もう血でいっぱいだと言われました。手術をするか、このまま自然にするか、選択を迫られました。
両親は『尊厳死』を望み、元気な時からサインをしていたので、自然に任せることにしました。
父のベットに寄り添い、目をつぶる父を見ながら「もう父には感覚はないのですか?」そう尋ねると、医師は「おそらく痛みも何も感じていないと思います」と答えました。
その直後、パッと目を見開き、私の手を握った父。「パパ、トイレに行きたくなっちゃった」と起きようとします。
「今はいけないから後で行こうね」と言ったら、「うん」と答えて眠りにつきました。
そして、そのまま静かに息を引き取りました。
あの当時は、「両親を同時に亡くすなんて…」と思っていましたが、日がたつにつれて思うんです。父と母は、最期まで夫婦だったんだと。
父を連れていったのは、母だと思っています。
父が孤独で寂しい日々を送らないように。娘たちに迷惑かけないように。夫婦で一緒に逝けるように。
母が仕組んだって思っています。
父もまた、母と逝けることが望みだったはず。願いが叶ったんだと思っています。
今私の生きる力になっている母の言葉があります。
「TVでは、幽霊とか亡霊とか、亡くなった後の霊魂を怖いものに扱うことが多いでしょ。
でもさ、もしママが死んで幽霊とか亡霊になったとしても、娘たちが怖がるようなことや、悪いことは絶対にしない。
あなたたちから見えなくても、どうにか力になろうとできることをする。絶対に守ろうとする。だって親だもん」
7年たった今、いつも近くに父と母の夫婦を感じています。
いつでも近くで守ってくれている。
亡くなった後の今も、こうして私に力をくれる存在。
夫婦っていいな。
私も夫より1日でも、1時間でも長生きしたいと思います。
grapeアワード優秀賞受賞
『夫婦』 PN:アポロン
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[構成/grape編集部]