「大人になるほど素敵になろう」 杏里のコンサートで感じた『潔さ』
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
大人になるほど素敵であるために
大人になるほど素敵になろう。この夏の杏里のコンサートを観て、今も胸の奥で静かな感動が息づいています。杏里は2018年にデビュー40周年を迎えました。そのうちの30年、一緒に歌を創ってきました。80年代の後半、手を伸ばせばそこにあるような感じがしているのに、その間に私たちはずいぶん大人になっていました。
杏里コンサート~unicef Live 1991年
時の流れと記憶。時々、不思議な感じがします。記憶は生きた証。目に見える形ではありませんが、時の忘れもののように自分の中に。コンサートでは、杏里の歌と共にその頃のことを鮮やかに思い出すのです。ロザンゼルス、メルローズ・アヴェニューのスタジオ。レコーディングの後によく行ったタイレストラン。笑い転げたこと、最後のフレーズが決まらなくて、何度も書き直したこと。小さな衝突。達成感。杏里が作ってくれた朝ごはん。コンサートの感動…。書ききれない思い出たちは、この年月の人生の豊かさを示してくれているようでした。この夏のコンサートで、そんな年月やさまざまな思いを熟成させ、歌うということに人生を賭けた杏里の潔さを感じたのです。
そう、『潔さ』です。生きていると、迷うこと、疑うこと、決められないこと、先に進めないこと、捨てられない思い…その迷路の中をあちらにぶつかり、こちらに跳ね返されたりしながら突破口を探すような時期があります。若い頃は、若さの勢いと情熱だけで突っ走ることはできました。しかし、それだけでは進めなくなる時期が、必ず来るのです。
経験値が高くなることで予測がつきやすくなっていることがあるかもしれません。意識のどこかに諦めがでてくるのかもしれません。しかし、アーティストは自分の才能と表現したいという欲求にコミットしない限り、限界がくるのです。自分の限界を見てしまうことほど、怖いことはありません。何を、どう表現するのか。表現したいことがわからなくなることや、自分の表現が受け入れられないときの焦燥は苦しい。『自分を生かす』という意識を強く持ち続けるのは、なかなか厳しいことなのです。
だからこそ『潔さ』が美しい。表現は試行錯誤の連続、自分との厳しいせめぎ合いがあることをすべて呑み込んで創っていく。潔さというのは、痛い思いをたくさんして肚(はら)をくくったときに生まれるもの。その姿にも、ファンは感動するのです。
情熱だけで突き進んでいた若かりし頃。怖いものを知らない怖さから生まれた作品は、今も記憶の中で輝いています。全神経を集中させ、わくわくしながら書いていたその頃の自分は、作品の中に生きています。
十分に大人になった今だからできること。自分を見つめ続けていくことが、大人になるほど素敵になっていく軸になるのです。
人生は芸術作品。目に見える作品を創り上げなくても、生き方が作品です。一人ひとりが人生のアーティスト。この意識から『潔さ』が生まれ、美しさが滲み出てくるのではないでしょうか。
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作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」