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五感を澄ませ、季節のうつろいを敏感に感じること

By - 吉元 由美  公開:  更新:

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吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

季節からの贈り物

ひと雨ごとに寒くなる。冬の訪れは冷たい雨とともにやってきます。雨が続くと花は色あせますが、赤く色づいた葉はさらに色を深めます。赤い実をつけ、紅葉したハナミズキの葉はところどころに黒い斑点など浮かべ、楽のお茶碗を思い出させる照りが何とも美しいものです。その季節、初めてコートに袖を通すのも、こんな冷たい雨の日。晩秋から初冬へと季節が移っていきます。

私たちは二つの時間を生きています。生まれてから死ぬまでの直線的な時間。そして季節のめぐりというスパイラルの時間です。直線的な時間のまわりを回りながら、季節はスパイラルにめぐります。

同じ季節を年の数だけ過ごしてきても、十代、二十代で見えていた晩秋の眺めと、五十代で見えた晩秋の眺めは違います。十代の頃は秋になるとオフコースやユーミンのバラードを聴きたくなったものでした。十代は十代なりの季節の楽しみ方がありました。

もうひとつ付け加えるなら、私たちは人生というひとつの季節を生きているとも言えます。立春を人生の始まりと考えてみると、いま自分がどの季節を迎えているのか、おぼろげながら見えてきます。私はもう秋の半ばの時間を生きているかもしれません。何十回も、紅葉を見ることはできないでしょう。

そう考えてみると、日々の移ろいのひとつひとつが愛しく感じられ、街を歩いていても、車に乗っていても、朝、窓を開けたときの空気の澄み方にも、「いま、この季節」を見つけます。それは、小さな感動を積み重ねることなのです。

仕事柄、言葉がどのように出てくるのか、イメージがどのように湧くのかよく質問されます。言葉は、伝えたいことがあって初めて言葉になります。また、心の中に言葉にならない思いがある。思いに名前をつけていく。それが言葉を生み出すことになります。でも、どのように名前をつけていいのかわからない。自分の言葉で伝えたいと思っても、うまく言葉にできないという経験をした人は多いと思います。

伝えたいことを自分の中に増やしていくには、感動することです。感動する感性を研ぎ澄ましていくことです。小さなことでも楽しむ。喜ぶ。何事もあたりまえのことだとは思わない。そんな感性が、日常の中に感動を見つけていく五感を澄ませます。季節のうつろいを敏感に感じ取っていくことは感動力を高め、日々を彩ります。そして、誰かに伝えたいというモチベーションにつながります。

お昼過ぎに、父から電話がありました。父は毎朝早く、私の家の植木の世話をしてくれます。

「盆栽の紅葉がきれいに紅葉しているよ」

感動が、父の心に感動をもたらしたのでしょう。伝えたいという思いが言葉に。小さな感動は、父の心をほっこりとさせたことでしょう。それは、私にとってもほっこりしたことでした。

※記事中の写真はすべてイメージ

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[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
吉元由美オフィシャルサイト
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