手は人生を語る それならば、幸せを語る手でありたい
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
手は人生を語る
手に年は隠せない。日々、パソコンで原稿を書いていると、画面と共にキーボードを叩いている手を常に見ています。リズムよくキーボードを叩いているのなら原稿が進んでいる証拠。しかし、考えあぐねているときには動きは止まる。そんなとき、ふっと自分の手に意識がいってしまいます。
手に年は隠せない。まだ三十代の頃にある人から言われた言葉です。まだ若いと思っていましたから、その言葉は少しショックでした。改めて自分の手を見てもそう老けたとは思えない。決して繊細な手でも指が細いわけでもない。丸っこい手がもっさり見えたのかもしれません。ずいぶんはっきり言われてしまいました。
手は働き者です。母が倒れて入院生活が続いていたとき、よく母の手を握りながらその感触を味わいました。脳梗塞で右半身の機能を失っていたので右手をマッサージするように。この手で私を育て、抱き上げ、この手でごはんを作ってくれた。この手と手をつなぎ歩き、この手を離して大人になったのだと思うと、とてつもない愛しさが湧き上がりました。言葉を発することができなくなっていたのですが、
「私は由美よ。わかる?」
と尋ねると、左手でびっくりするような力を込めて手を握り返してきたものでした。医師は、現状を理解できていないと言います。しかし、その手の強さを思うと、どこかでわかっていたのではないかと思うのです。いったいその頃母がどのような思いだったのか。想像しようにもできませんでした。
手には表情があります。形、ぬくもり。皺も表情のひとつ。力の込め方。
握手をしたときに、ふっと「その人」を感じます。以前、有名なある俳優さんと仕事をしました。それはそれはハンサムで、思わず見とれてしまうほどの人です。初めてお会いして握手をしたときの感覚、いまも忘れられません。しっとりしていたというのか、湿った感じだったのです。また別の機会でお会いしたときの握手もしっとり湿った感。大好きな俳優さんの秘密を知ったような。テレビでお見かけするたびに、握手したときのことを思い出します。
手は人生を語ります。これまでの人生も、そしてこれからの人生も。働き者の手は、いつまでも美しくしっとりと、幸せを語る手であってほしい。心がいつも平和であることと共に、保湿をしっかりと。ハンドクリームにも効果的な塗り方があるそうです。手の甲を横方向にハンドクリームを丁寧に塗り込み、指も一本一本ねじるように塗り込みます。指と指の間にも。この塗り方をするようになってから、手の甲に少し透明感が出てきたように思います。手を洗ったらすぐに保湿がコツだそうですよ。
手が語る人生。手が表現すること。目は口ほどにものを言う、という言葉がありますが、手も口ほどにものを言うのです。幸せを語る手でありたい。こうして原稿を書きながら改めて思うのであります。
※記事中の写真はすべてイメージ
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」