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幼稚園の給食を残した園児 その『理由』に、先生は涙した

By - grape編集部  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

2020年8月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。

『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。

今回は、応募作品の中から『先生の涙』をご紹介します。

先生の涙

もう四十年も前のことです。

上の娘・お姉ちゃんが幼稚園の年中さんのときの出来事でした。その頃の園の昼食は、白い御飯だけお弁当箱に入れて持って行き、おかずは園で用意してくれました。

幼稚園も夏休みに入り、担任の先生が家庭訪問にやってきました。お姉ちゃんは二歳下の妹と近所の家へ遊びに行っています。

何軒か園児の家を回ったというのに、先生は疲れた様子もなく、挨拶もそこそこに話を切り出されました。

「コロッケが二こ出たんですが、どうしてももう一こ食べないんですよ。コロッケが嫌い?って訊いたら、そうでもなくて。できるだけ残さずに食べようね、ほかのみんなは二こ食べちゃったよ、って言っても、強情なんですね、とうとう残しちゃいました」

このことが先生の最大の関心事だったようです。

私は思い当たったことがあったので、すかさず言いました。

「あっ、先生、あのー、実は、うちの子……コロッケがあまりおいしかったから……妹や私に残してきてくれたんです。おみやげ、おみやげって言いながら帰ってきて……」

私は話しながら、何日も前のおいしいコロッケを思い出していました。そしてなぜか遠慮がちに言っているもう一人の自分に気づきました。先生の直球に、直球で返すのはなぜか抵抗があったからでした。

先生の目は一瞬宙を漂いましたが、突然、大粒の涙がはらはらと落ち、先生の白いブラウスを濡らしました。先生は取り出したハンケチで何度も何度も目頭や頬をぬぐいましたが、涙はとめどなく流れてきました。

私はお姉ちゃんがコロッケを残してしまったことを詫びようとしましたが、言葉をはさむ余地もなく、とうとう言いそびれてしまいました。

私が先生の心の内に分け入る必要はありませんでした。思い違いだったと気づいた若い先生の言葉の代わりに迸った涙の豊かさが、先生の心の内を物語っていました。涙の豊かさは気持ちの深さでもありました。

先生の温かい涙は、それだけで、お姉ちゃんをぎゅっと抱きしめていました。

あの日、先生は思いがけないことを告げられ、私は目の前で予期しない光景に息を呑みました。ひと回り以上離れている年齢の私には先生の涙がただただ初々しく、清新な光景に出くわしたように、ただただ見とれるばかりでした。 

あの頃、私は友達と出かけた際に、自分だけ食べるのはもったいなくて、子どもたちにクッキーやお菓子をよくお土産に持ち帰ったものでした。

お姉ちゃんはそれがとても嬉しかったのでしょう。クリームコロッケを見るたびに、担任の先生と小さい頃のお姉ちゃんが甦ります。

先生は今頃は何人かのお子さんのお母さんになっていらっしゃることと想像します。私の娘たちも、何があっても温かい涙を絶やさないように、と願ってやみません。

grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響くエッセイ』
タイトル:『先生の涙』
作者名:風花

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[構成/grape編集部]

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