愛猫が旅立って飼い主が『知ったこと』に涙 10年間を振り返ると… By - grape編集部 公開:2020-09-17 更新:2020-12-18 grape Awardgrape Award 2020grape Award エッセイエッセイペット家族猫 Share Post LINE はてな コメント ※写真はイメージ 2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。 『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。 今回は、応募作品の中から『生まれてはじめて』をご紹介します。 生まれて初めての経験は、必ずしも意図して起こるものではないということ。 彼は突然やってきた。私が小学6年の冬、下校して家に辿り着くと、近所では見かけることのなかった一匹の猫が、玄関の前にお行儀よく座っていた。まるで「中にいれて!」と言っているかのように。 その日から、彼は毎日やってきては家の中に入れてもらうのを待っているようだった。とても愛くるしい顔で。 すぐに彼は我が家の食卓の話題となった。「不思議な子だね、これも何かの縁だと思うし飼ってあげようか」母のその一言によって、大の猫嫌いである父の反対を押し切り、その日から家族が1人増えた。 「彼」は「みーしゃ」になった。みーしゃは本当に人懐っこくて、誰にでもすりすりした。一緒に眠りにつくのもしょっちゅうだった。 中学校、高校に入っても彼との会話を欠かす日はなかった。部活動のこと。初めてのデートのこと。辛かったこと。楽しかったこと。家族には恥ずかしくて話せないことも全部、話せる唯一の存在だった。 そんなみーしゃが、私が大学4年の3月、ある朝突然天国へ行ってしまった。 その日は、リビングで朝食をとっていた私と母のもとに眠そうに寝床からやってきて、いつものようにお気に入りである母の膝のもとへ飛び乗った。ものの五分、いつもなら絶対に落ちることのないみーしゃはいきなり母の膝の上から崩れ落ちた。 いくら呼んでもゆすっても、もう一度として動くことはなかった。急いで彼を抱え上げ動物病院へと向かった。まだ温かさの残るみーしゃの温度を私の体いっぱいに感じながら、大丈夫と言い聞かせて。 しかしお医者さんの診断は、もう変えることのできない事実そのものだった。受け入れることのできない事実を、何度も咀嚼しようとしながら涙が止まらなかった。 我が家に突然やってきた彼は、去る時も突然だった。待合室で涙を流しながら「みーしゃらしいね」と呟いた母の言葉にどこか納得もした。 もしかしたら、彼は自分が旅立つことをわかっていて、どうしても最後に大好きな母のもとに、お気に入りの膝の上にいこうと、最後の力を振り絞って飛び乗ったのではないかと思う。一緒に過ごした人生の半分である、10年間という長いようで、あっという間の時間。 猫が大の苦手だった父が、誰に言われわけでもなくみーしゃの朝ごはん当番を喜んで担っていたこと。自分の部屋にこもりがちだった兄がリビングに来るようになったこと。内気な妹が以前よりも表情豊かになったこと。 家族の歯車が狂わないようにいつも中心にいてくれた偉大な存在。私たち家族は、今まで本音で語り合う事を、恥ずかしがっていたことにも気づいた。 そして当たり前となっていた、私とみーしゃが交わした「秘密の会話」は、お金では買うことのできない、そして消えることのない大切な「思い出」を、たしかに私の中に残してくれた。 毎日を懸命に生きているとあっという間に過ぎてしまう時間。振り返って見ると、全てを「あっという間」には振り返ることのできないたくさんの過去が、今の自分を支えている。 そして私にとって生まれて初めての経験は、「ありがとう」と心の底から感謝できる時間の素晴しさを教えてくれた。私たち家族は今、中心の見えない歯車を、崩れないように円陣を組み、支え合って毎日を生きている。 あの日からしばらくして、母が家のそばで何日も鳴き続けていた弱った小さな子猫を見つけ、保護してきた。 みーしゃと全く同じ模様の小さな君。そうか、命は繋がっていくんだな。そう思わずにはいられない出来事に、巡る「生」の不思議な何かにそっと触れたような気がした。 そして私は今、家族の絆をより一層深く感じている。 grape Award 2020 応募作品 テーマ:『心に響くエッセイ』 タイトル:『『生まれてはじめて』』 作者名:村上 敬亮 『grape Award 2020』受賞作品が決定! 2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の受賞作品が決定しました。 結果は以下の通りです。 『心に響く』エッセイコンテスト grape Award 2020入選作品が決定! 『grape Award 2020』詳細はこちら [構成/grape編集部] 自分をトイプードルだと思っている大型犬 1枚に「笑った」「愛の重み」飼い主のヒザにのる、ゴールデンレトリバーの写真が話題です。 散歩に行こうとしたら… 全力の『拒否顔』が、こちら飼い主(@87shiba87)さんが投稿した、柴犬のハナちゃんの散歩を拒否する表情に注目が集まりました。 Share Post LINE はてな コメント
2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。
『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。
今回は、応募作品の中から『生まれてはじめて』をご紹介します。
生まれて初めての経験は、必ずしも意図して起こるものではないということ。
彼は突然やってきた。私が小学6年の冬、下校して家に辿り着くと、近所では見かけることのなかった一匹の猫が、玄関の前にお行儀よく座っていた。まるで「中にいれて!」と言っているかのように。
その日から、彼は毎日やってきては家の中に入れてもらうのを待っているようだった。とても愛くるしい顔で。
すぐに彼は我が家の食卓の話題となった。「不思議な子だね、これも何かの縁だと思うし飼ってあげようか」母のその一言によって、大の猫嫌いである父の反対を押し切り、その日から家族が1人増えた。
「彼」は「みーしゃ」になった。みーしゃは本当に人懐っこくて、誰にでもすりすりした。一緒に眠りにつくのもしょっちゅうだった。
中学校、高校に入っても彼との会話を欠かす日はなかった。部活動のこと。初めてのデートのこと。辛かったこと。楽しかったこと。家族には恥ずかしくて話せないことも全部、話せる唯一の存在だった。
そんなみーしゃが、私が大学4年の3月、ある朝突然天国へ行ってしまった。
その日は、リビングで朝食をとっていた私と母のもとに眠そうに寝床からやってきて、いつものようにお気に入りである母の膝のもとへ飛び乗った。ものの五分、いつもなら絶対に落ちることのないみーしゃはいきなり母の膝の上から崩れ落ちた。
いくら呼んでもゆすっても、もう一度として動くことはなかった。急いで彼を抱え上げ動物病院へと向かった。まだ温かさの残るみーしゃの温度を私の体いっぱいに感じながら、大丈夫と言い聞かせて。
しかしお医者さんの診断は、もう変えることのできない事実そのものだった。受け入れることのできない事実を、何度も咀嚼しようとしながら涙が止まらなかった。
我が家に突然やってきた彼は、去る時も突然だった。待合室で涙を流しながら「みーしゃらしいね」と呟いた母の言葉にどこか納得もした。
もしかしたら、彼は自分が旅立つことをわかっていて、どうしても最後に大好きな母のもとに、お気に入りの膝の上にいこうと、最後の力を振り絞って飛び乗ったのではないかと思う。一緒に過ごした人生の半分である、10年間という長いようで、あっという間の時間。
猫が大の苦手だった父が、誰に言われわけでもなくみーしゃの朝ごはん当番を喜んで担っていたこと。自分の部屋にこもりがちだった兄がリビングに来るようになったこと。内気な妹が以前よりも表情豊かになったこと。
家族の歯車が狂わないようにいつも中心にいてくれた偉大な存在。私たち家族は、今まで本音で語り合う事を、恥ずかしがっていたことにも気づいた。
そして当たり前となっていた、私とみーしゃが交わした「秘密の会話」は、お金では買うことのできない、そして消えることのない大切な「思い出」を、たしかに私の中に残してくれた。
毎日を懸命に生きているとあっという間に過ぎてしまう時間。振り返って見ると、全てを「あっという間」には振り返ることのできないたくさんの過去が、今の自分を支えている。
そして私にとって生まれて初めての経験は、「ありがとう」と心の底から感謝できる時間の素晴しさを教えてくれた。私たち家族は今、中心の見えない歯車を、崩れないように円陣を組み、支え合って毎日を生きている。
あの日からしばらくして、母が家のそばで何日も鳴き続けていた弱った小さな子猫を見つけ、保護してきた。
みーしゃと全く同じ模様の小さな君。そうか、命は繋がっていくんだな。そう思わずにはいられない出来事に、巡る「生」の不思議な何かにそっと触れたような気がした。
そして私は今、家族の絆をより一層深く感じている。
grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響くエッセイ』
タイトル:『『生まれてはじめて』』
作者名:村上 敬亮
『grape Award 2020』受賞作品が決定!
2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の受賞作品が決定しました。
結果は以下の通りです。
『心に響く』エッセイコンテスト grape Award 2020入選作品が決定!
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[構成/grape編集部]