「電車の中でビールを飲む人」を見たらどう思う? 『自由』について考える機会が少なくなっている
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
使われなくなった言葉がもたらしたもの
にわかに混み始めた地下鉄で、初めて見る光景に遭遇したという話を聞きました。
座席に座るなり、中年の夫婦らしいふたりが缶ビールを開け、にこやかに乾杯して飲み始めたというのです。時に大笑いをし、ぐびぐびと飲み、ふたりのその空間だけ居酒屋さんのようだったと。
ふたりの前に立っている数人の乗客もまるで彼らの目には入っていないのではないか。「さきイカとか唐揚げを食べ始めなくてよかった」と冗談まじりに話してくれましたが、その光景はちょっと衝撃的だったそうです。
電車の中で女性がお化粧している光景はもう見慣れたものです。下地、ファンデーションから始める人は、降りる駅までの時間を計算しているのではないかと思うほど、きっちりと仕上げて電車を降りていきます。
知らない他人にどう思われようと、どうでもいいのでしょう。このような光景が散見しはじめた頃は(みっともないなあ)と思ったのですが、こちらも慣れてしまいました。
リキッドアイラインを、よく揺れている電車の中で引けるものだと、もはや感心します。
もしも地下鉄の中でビールを飲んでいるところに上司が乗ってきたら? ママ友が乗ってきたら? ファンデーションを塗っているところに、好きな男性が乗ってきたら? さて、どう感じるでしょうか。
公の場でまわりを気に留めない、他人の存在を消せるのは、『名前』を知らないからかもしれません。
自由に振る舞うことが悪い、ということではないのです。人それぞれに『自由』の捉え方は異なるでしょう。でもそこには社会的責任と、自分の人生に対する責任もある。
そこを考える機会が少なくなっているのかもしれません。『自由』について語るのは、なかなかむずかしい時代になりました。
言葉が失われると、その精神性も失われる。これを『言葉』『日本語』という観点で考えみると理解しやすくなります。
例えば、「はしたない」という言葉はすっかり聞かれなくなりました。するとどうなるか。はしたないという概念が薄らいでいくのです。
子どもの頃、親からはしたないことをしないように、と言われたものです。当時は反発する気持ちもありましたが、その『言葉』に美意識を育てられたと思っています。
はしたない。慎む。おかげさま……このような言葉を「古くさい」を思うのは、言葉にこもっている心がこの時代とそぐわないと感じているからなのか。
日本語にはそれを現実にする『言霊』が宿っていると言われます。新しく取り入れるもの。守り続けるもの。いい、悪い、で判断するのではなく、考え続けていくことだと思います。
いのちを紡ぐ言葉たち かけがえのないこの世界で
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※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」