人とご縁ある『もの』との間に、物語が生まれる
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
ご縁ある『もの』との物語
(私を連れて帰って)
そんなふうに、呼び止められることがあります。もちろん、人ではありません。20年近く前になりますが、ヴァチカン美術館を観てまわっていたとき、10センチ四方ほどの小さなキャンバスにマリア様の細密画と出会いました。フレーム入っても手のひらに載るほどの小さな絵。
(私を連れて帰って)
なぜか、そんなふうに言われている気がして、その絵を買いました。マリア様の慈愛に満ちたお顔。寝室の鏡台の、鏡の横に置きました。朝、そして夜、鏡に映った私の横にマリア様のお顔がある。何事もないときも、悲しいときも、きつかったときも変わらずに。変わっているのは、私の顔、表情であり、気づくたびにはっとするのです。
同じように、フランスの教会でもマリア様に呼び止められました。手のひらに載る木彫りのマリア様。薄いブルーのローブをまとい、両手を軽く広げて、(さあ、いらっしゃい)とでも語りかけるような。
特にキリスト教の信者ではありませんが、マリア様とイエス様はいつも心の中にいらっしゃるような気がするのです。娘を妊娠し、8ヶ月のときだったか、超音波の検査で頭に水が溜まっていることが判明しました。このまま水が吸収されないままでいると水頭症になる可能性がある。私の人生にこんなシナリオがあったのか…と、慌てはしませんでしたがそのショックはボディブローのように徐々に響いてきました。
病院を出て、なぜか前にグレゴリオ聖歌を聞きにいったカトリック教会に向かっていました。
(私はどうなっても構いません。どうぞ元気に、無事に生まれてきますよう赤ちゃんをお護りください)
気づくと必死に祈っていました。祈るとはこういうことなのだと思いました。それから毎日、教会で祈ったのです。5日ほどたったとき、私の中にずんっと響く感覚がありました。
(安心して生まれていらっしゃい。大丈夫!任せなさい)
肝が据わったのです。私は、生まれてくる魂に見込まれたのだと思いました。このプロセスは、いまでも不思議な感じがするのです。幸い、頭の水は吸収され元気に生まれてきました。この経験は私に、親になる覚悟をさせるためのものだったのでしょう。マリア様に惹かれていたのは、何事があっても受け入れ、ただただ愛を示していくということを、無意識の中で求めていたからなのかもしれません。
ふたつのマリア様と出会って20年が過ぎました。つい先日、また呼び止められたのです。
(私を連れて帰って)
ルネ・ラリックのマリア像。目の保養にとラリックのお店を見ていたとき、呼び止められてしまいました。柔和なお顔。柔らかいフォルム。あら、素敵!とすぐに買えるようなお値段ではありません。その場を離れようとしても、離れられない。清水の舞台から飛び降りるような気持ちで、ラリックのマリア様をうちにお迎えしました。
これからの人生、予測がつかない年代に入ります。そんな私に寄り添うために、来てくださったのかもしれません。人とご縁ある『もの』との間に、物語が生まれる。
人生を豊かに彩る物語になりますように。
※記事中の写真はすべてイメージ
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作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」