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晴れの日も、なぜかビニール傘を持ち歩く親子 その理由は…

By - grape編集部  公開:  更新:

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※写真はイメージ

2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。

『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。

今回は、応募作品の中から『晴れの日もビニール傘』をご紹介します。

2020年3月、曇り空が広がるある日のことです。折しも新型コロナウイルスが私たちの生活に大きな影響力を及ぼし始めていましたが、いつもように朝8時ごろ、私と息子は保育園に向けて自宅を出ました。

すると保育園との中間地点、というところでポツポツ…雨が降り出しました。これから勢いを増してやるぞ、というような意地の悪い雰囲気の雨でした。

参ったなぁ。傘を取りに戻るにしても濡れることには変わりない微妙な距離です。「よーし、このまま進むぞ!スピードアップ!」と息子を急かし、小走りに進んでいました。すると突然後ろから声を掛けられました。

「これ、よかったらどうぞ!」

20代半ばくらいの青年が私たちにビニール傘を手渡して走り去って行ってしまいました。「保育園まで近いので、大丈夫です!」の私の声を背に、どんどんその姿は遠ざかっていきました。

私たちの保育園までの距離よりも、お兄さんが歩く駅までの距離のほうが長いのに。それにどうやって傘を返そう。連絡先も聞けなかった…、という現実的な心配と同時に、お兄さんの優しい心遣いに胸が締め付けられて涙があふれてきてしまいました。本当にありがたくて、嬉しくて仕方がなかったのです。

「ありがたいねぇ。これで濡れずに保育園に行けるね。優しいお兄さんがいてくれてよかったね。」

その日から息子にとって“ビニール傘のお兄さん”はヒーローになりました。お借りした傘を返却したい。次の日も、その次の日も私と息子の登園にはお天気に関係なく、いつも借りたビニール傘が一緒でした。もちろんすがすがしい晴天の日も。

時には登園を渋ってなかなか家を出ようとしない息子を「早くお兄さん探しに行こう!この傘、返せなくなっちゃうよ!」と急かすのにも役立ってくれたこのビニール傘には感謝の気持ちでいっぱいです。

毎日キョロキョロと怪しげに首を振っては“ビニール傘のお兄さん”を息子と探しました。でもどうしても再び会えない。

そうこうしているうちに、ついに緊急事態宣言が発令され、4月から息子が通い始めるはずの幼稚園が休園となってしまいました。4月からの二か月間、私と息子は自粛生活を余儀なくされ、いつもの時間に外に出てお兄さんを探せなくなってしまいました。

食事の準備に加えて、やんちゃ盛りの息子の遊び相手を毎日こなすのはアラフォーになった私にとってかなりタフな毎日でしたが、息子の成長にどっぷりと向き合うことができ、とても濃密で愛しい日々でもありました。

振り返ってみると、息子を授かってから、誰かの親切が身に染み、心の底からの「ありがとう」が沸き上がる経験を何度もしてきました。

妊娠中の通勤電車でいつもの時間にいつもの車両で出くわすたびに席を譲ってくれた初老のおじさん。エレベーターのない地下鉄でベビーカーを一緒に運んでくれた外国人の女性。

感謝があふれる瞬間に遭遇するたびに何もお返しできることがなく、もどかしさの中で祈ることしかできませんでした。この人に今後の人生で良いことが雪崩のように起きますように。嫌なことや悲しいことは絶対に起きませんように、と。

今日も通園路でキョロキョロ探索を継続です。私たちは意外にしぶとく、まだ返却を諦めていないのです。

grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響くエッセイ』
タイトル:『晴れの日もビニール傘』
作者名:葵らいでん

エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!

2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。

さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。

心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!


[構成/grape編集部]

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