廃棄される予定の5万個を救った? パンを焼かない『夜のパン屋さん』の活動とは
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原点はホームレスの自立支援
フードロス削減に特化した活動をしている、『夜のパン屋さん』。
運営しているのは、ホームレスの人たちの生活サポートなどの事業を行う、特定非営利活動法人ビッグイシュー基金(以下、ビッグイシュー基金)です。
実は、『夜のパン屋さん』の活動の原点は、ホームレス状態であったり、生活に困窮していたりする人々が自立を応援するための仕事場を作ることだったといいます。
東京都千代田区大手町にて販売/撮影:Asano Kazuya
ビッグイシュー基金の母体組織である有限会社ビッグイシュー日本は、『ホームレスの人々の救済ではなく仕事を提供し、自立を応援する』ことを目的に、雑誌『ビッグイシュー日本版』を作り、ホームレス状態や貧困状態にある独占販売事業とし、その売り上げの50%以上を収入にしてもらうという仕組みをもっています。
その活動の1つとして、2020年に立ち上がったのが、『夜のパン屋さん』。
プロジェクトの立役者は、以前代表を務めていた、料理研究家の枝元ほなみさんです。
枝元さんは、たくさんの食べ物が捨てられていることと、十分に食べられなくて苦しんでいる人がいるという2つの現状に向き合っていました。
不均等な世の中を変えるための活動をできないかと考えていた時に、まとまった寄付をしてくれる人が現れたのです。
寄付をした支援者は、ホームレスの人たちが働ける環境を作っていることを知ってくれていて、「まったく新しい仕事場を作ってほしい」という思いを持っていました。
ずっと食べ物を軸に何かをしたいと思っていた枝元さんが、目を向けたのがパンだったのです。
東京都世田谷区三軒茶屋にて販売/撮影:Asano Kazuya
最初は、協力してくれるベーカリーを探すのにも苦労したとか。
まだ世の中にはない、新しい試みだったので、断られることばかりだったといいます。
それでも、枝元さんが企画書を持って、ベーカリーをいくつも回って話をする中で、少しずつ賛同してくれるベーカリーを見つけていきました。
コロナ禍の逆境を乗り越えて…
そんな中で立ちはだかった試練が、新型コロナウイルスの蔓延でした。
『夜のパン屋さん』の活動をスタートさせたけれども、開店できないという状況でした。
でも、「パンは主食だから…」と、店を閉めずに頑張って営業していたベーカリーは多かったんです。
人が生きるためには、『食べる』ということは必要不可欠なんだなと改めて思いましたね。
コロナ禍では、ベーカリーをはじめとした飲食店が通常通りに営業できないことに加えて、雇い止めに遭った人も問題になりました。
「明日から、仕事に来なくていい」といわれた人たちの話を聞いて、光枝さんはこのように感じたといいます。
雇う側にも都合がありますが、雇われている側にも生活があって。
多くの人の生活が立ち行かなくなる状況を目の当たりにしました。
「困った時はお互いさま」といえるように、人でも食べ物でも、手を差し伸べ合える仕組みがあるといいですよね。
食べられるものがゴミになるなんて、やっぱり悲しいじゃないですか。
さまざまな状況や経験で、働くことへのハードルが上がった人でも仕事がしやすいように、『夜のパン屋さん』では、フラットに働ける関係を目指しているそうです。
コロナ禍で思うような活動ができない中でも、パンを売るスタッフたち、そしてベーカリーが、同じ志を持って続けてきた、『夜のパン屋さん』の活動。
2025年現在では、月曜日から金曜日の平日5日間、都内4店舗で間借りをしながら、パンを売っています。
2025年現在、『夜のパン屋さん』では、なんと年間4万6000個から5万個のパンを売り上げているとか!
捨てられていたかもしれないパンが、おいしく食べてくれる人に届けられていることが分かりますね。
フードロスを減らす仕組みを広げたい
『夜のパン屋さん』の、今後の展望について聞くと、光枝さんはこのように答えてくれました。
『夜のパン屋さん』だけの特別な活動ではなくて、もっと多くの人にやってもらいたいんです。
社会全体で、食べ物が捨てられない仕組みを作ろうというきっかけになったらなと思っていますね。
また、光枝さんはフードロス削減だけではなく、地域のとのつながりにも強い想いがあるのだとか。
路上でパンを売っていると、季節の移り変わりやお客さんの温かさを感じるそうです。
帰り道にたまたま見つけて買ったり、常連さんの中には『夜のパン屋さん』のスタッフとのおしゃべりを楽しみにしてくれたりする人もいるんです。
活動を続ける中で、『地域の一員』として迎えてもらっている実感が湧くと嬉しくなりますね。
フードロスの削減に加えて、雇用機会や地域のコミュニティの創出に貢献している、『夜のパン屋さん』。
ゼロから始めた活動が、たくさんのパンと人々の心を救うことにつながっているようですね。
あなたも、『夜のパン屋さん』に足を運んでみて、おいしいパンと温かな優しさに触れてみてはいかがでしょうか。
[文・構成/grape編集部]