暴れる酔っ払いをパトカーで連行 車内の珍事件に「笑うの我慢した」「地獄の時間」
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かつて警察官として勤務していた筆者。当時は、年齢も性格もまったく違う『相棒たち』と、数々の現場を一緒に乗り越えてきました。
厳しい職務の中でも、思わず笑ってしまうような瞬間があるのが、この仕事の面白いところの1つです。
本記事では、警察官時代に筆者が出会った『ちょっと変わった先輩』を紹介します。
兄貴肌で天然な先輩
その先輩は、柔道の猛者として知られる人でした。警察署対抗の武道大会では無類の強さを誇り、署内でも一目置かれる存在。
警察には、悩みを打ち明けやすくするための『兄弟制度』のような仕組みがあり、筆者にとってその先輩は直属の『兄』でした。
「警察の中では俺はお前の兄ちゃんだからな!」
そう何度も言っては、誇らしげに『兄ちゃんアピール』をしてくる姿が印象的でした。
面倒見もよく、後輩たちの相談にもよくのってくれる人ですが、強さと優しさとは裏腹に、どこか天然な一面も。
強くて頼りになるけれど、ちょっと変わった先輩の『天然な一面』を象徴する出来事が起きたのです。
酔っ払い搬送中に響いた、先輩の大声
とある週末の深夜、繁華街で「泥酔した男性が暴れている」と通報が入りました。
現場に到着すると、男性は腕を振り回して大声を上げ、手がつけられない状態…。
やむを得ず保護し、パトカーで警察署へ搬送することになりました。
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運転席と助手席に1人ずつ、後部座席には警察官2人と泥酔者を挟む形で、計5人での乗車。
狭い車内でも、男性はなお暴れ続け、「国家の犬が!」などと悪態をつく始末です。
泥酔者の隣に座っていた筆者は、怒りをぐっとこらえながら必死になだめていました。
すると突然、助手席の先輩が車内がビリビリと震えるほどの声で、後ろを振り返りながら、こう怒鳴ったのです。
「ご主人さんっ!!」
周囲に座っていた警察官に緊張感が走ります。泥酔者も「な、なんだよ…」と尻込みしはじめました。
車内を包む地獄の沈黙
先輩の次の言葉を、筆者も、周りの警察官、そして泥酔者も待っている様子。車内には、ピンと張り詰めた空気が流れていました。
そして、ついに先輩が動き出したと思いきや…なんと、何も言わずにゆっくりと前を向いてしまったのです…!
すかさず運転していた上司が、「…何も言わないんだ」とポツリ。
泥酔者を見ると拍子抜けしたように、ポカンとした表情を浮かべています。先輩の迫力に圧倒されたのかもしれませんが、「え?それだけ?」と言いたそうにも見えました。
泥酔者を挟んで座っていた同僚と目が合った瞬間、笑いがこみ上げ、2人して必死に下唇を噛みしめる事態に…。
意味の分からない地獄のような沈黙。警察署に着くまでの時間が、あれほど長く感じたことはありませんでした。
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笑いの裏にあった『優しさ』
警察署に到着し、手続きが終わった後、筆者は先輩に「さっき、何を言おうとしたんですか?」と尋ねました。
すると先輩は、少し照れくさそうに笑いながらこう答えます。
お前らは優しくなだめていたけれど、あんな悪態つく酔っ払いには「喝を入れるのがいい」と思ったんだよ。
でも、勢いで大声を上げたものの、その後何を言うかまでは考えてなかったから、内心は「どうしよう…」と動揺していた。結果的には酔っ払いも黙ったし、いいだろう?
それを聞いた周りの警察官たちは大笑い。先輩は顔を赤らめて、少し恥ずかしそうにしていました。
けれど筆者は、その瞬間に気づいたのです。
先輩は『ただの天然』からの行動ではなく、後輩や市民を本気で守ろうとする気持ちから、とっさに動いてくれたのだと。
まさに強さと優しさをあわせ持つ『兄貴のような先輩』を象徴する出来事でした。
あの日の「ご主人さん!」という力強いひと言は、今でも心に残っています。
記事執筆 りょうせい
元警察官。警察歴10年。
交番勤務を経て、生活安全課の捜査員として勤務。
行方不明やDVなどの「人身関連事案」を対応しつつ、防犯の広報・企画業務を兼務。
現在は警察の経験を生かし、Xや音声配信(StandFM)にて、防犯情報を発信中。
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[文・構成/りょうせい]