看護師から漫画家へ──異色の転身を決めた女性が、漫画家一本で生活できるワケ【インタビュー】
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クリニックや訪問看護ステーション、病棟などのさまざまな場所で働く、看護師。
病棟で働く場合は、看取りが日常茶飯事になることも決して珍しくありません。
明(@rikukamehameha)さんも、病棟での看護師を長年経験し、たくさんの患者を看取ってきた1人。2025年10月28日現在は、漫画家として、自らの実体験をもとにした作品を多く描いています。
同月16日にXに投稿した漫画では、看取りを乗り越えて退勤した後の、看護師の本音が描かれていました。
看取りの最中は忙しく、『看護師としてすべきこと』に集中しているものの、家に帰るとふとした瞬間に心が止まってしまうとか。
どれだけ場数を踏んでも、看取りは心が大きくすり減る仕事だということが、ひしひしと伝わってくる漫画ですよね。
明さんは「それも看護師を続けていくうえでしんどいことの1つだったんだなと、今なら分かる」と振り返っています。
漫画家を続ける中で、看護師の経験はどう生きる?
今では、看護師を辞めて漫画家として活動している、明さん。
grapeは、看護師を目指そうと思ったきっかけや、漫画を描くうえで意識していることなどについて、明さんに聞きました。
――まず、看護師を目指したきっかけについて教えてください。
実は、初めは「看護師になる」と明確に決めていたわけではなかったんです。「医療系がいいな」と漠然と思っていただけで、しかもそのきっかけは『宇宙への憧れ』でした。
というのも、私は中学生時代に『月刊コロコロコミック』にて掲載されていた『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』というミニ四駆が題材の作品が好きで、放課後は友人たちと学校の廊下でミニ四駆を走らせていました。その漫画が原作のアニメの中には、『宇宙飛行士の卵』で、訓練の一環としてミニ四駆レースに参加しているキャラが登場したのですが、それが当時の私にはとてもかっこよく見えたんです。
その数年前には、向井千秋さんが日本人女性として初めて宇宙飛行士になったニュースもありましたから、中学生の私は宇宙に惹かれるようになりました。
宇宙飛行士になりたい、という強い想いがあるわけではなかったのですが、「いつか人間が宇宙で暮らす日がきたら、そこで働く人になりたいな」という考えがずっとあったことが、大学進学の時に「医療に関わる仕事なら、宇宙でもきっと必要になるはず!」と医療系の学部を選択したきっかけです。
大学で学んでいるうちに、ようやく「看護師っていいな」と思うようになり、看護の道を選びました。
――看護師と漫画家の二足のわらじを履こうと思ったのは、なぜでしょうか。
今回取り上げていただいた漫画にもあるように、看護師は看取りを経験します。
看護師になって初めてその瞬間を経験した時は、突然だったこともあって私は固まって動けず、先輩たちの足を引っ張ってしまいました。その後はそんなことはなく、自然と対応できるようになっていきましたが、やはり心は消耗します。
だけど、患者さん本人や家族が一番しんどいのに、看護師の私が「看取りがつらい」とこぼすのはいけないことのような気がして、吐き出す機会がありませんでした。看護の仕事は好きでしたが、そればかりではなく、ほかにもしんどいことはたくさんありましたから、段々と精神的にすり減って抱えきれなくなっていったんです。
そんな時に、言葉にする代わりに吐き出す手段として、漫画を描き始めました。
自分の心を慰めるつもりで描いていましたが、ウェブ上で公開すると、私の漫画に「救われた」という感想をいただき、驚きとともに「もっと描いてみよう」という気持ちが湧いてきたんです。
看護の現場で消耗した心を、漫画を描くことで癒し、それが誰かの癒しになる。それで私もまた救われる。そんなループが、気づけば5年間続いていました。そんな時に編集者さんから声をかけていただき、デビューすることになったんです。
ただ、もともと漫画は看護現場での思いをぶつけるものだったし、漫画家という不安定な職業を一本でやっていく勇気はなかったので、デビュー当初は看護師と漫画家という二足のわらじを選択しました。
――漫画を描く中で「看護師を経験していてよかった」と思う瞬間はありますか。
医療の知識があることは武器だなと思います。
私は物語としての漫画も描きますが、医療・看護専門書で看護学生や看護師さん向けの漫画のお仕事もたくさんいただいているんです。漫画家としてデビューした当初、二足のわらじを選択しましたが、現在は漫画家一本でやれているのは、この武器のおかげだと思います。
また同時に、こうした専門性が物語に深みを加えてくれるといいな、と思っています。私もまだ試行錯誤の途中で、実際にできているかどうかは分からないのですが。
――「何か新しいことに挑戦してみたい」と思っている現役看護師の人たちへ、メッセージをお願いします。
漫画家になって初めて、看護師って「1日の業務の中でいくつものタスクをこなし、患者さんそれぞれのアセスメントをし、いろんな患者さん・職種の人とコミュニケーションをとる」という、とてもスキルの求められることをしていたんだなと分かりました。
こうしたスキルは、漫画においてもスポーツにおいても、人との交流においても求められるスキルじゃないかなと。
だから、もし何か新しいことに挑戦してみたい看護師さんがいたら、『自信を持って』飛び込んでみてほしいなと思います。「あなたが看護の現場で磨いてきたスキルは、どこに行っても通用するよ!頑張れ!」と。
長年積み上げてきた看護師としての経験を、2025年10月28日現在は漫画という形で世に届けている、明さん。
現役看護師にはもちろん、「何か新しいことにチャレンジしてみたい」と思う多くの人たちにとっても、明さんの活躍する姿や生み出される作品の数々は、大きな励みとなるはずです。
※本記事は投稿者様の許諾を得た上で掲載しております。
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[文・構成・取材/grape編集部]