ベロベロに酔った中年男性が… 交番で取った言動に、新人警官「毎日来てほしい」
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忘れ物をした部下を叱る上司 続く展開に「思わず笑った」警察官として働いていた頃、筆者はさまざまなタイプの『相棒』とパトカーを走らせてきました。 几帳面な人、豪快な人、口数は少ないのに現場では誰より頼りになる人…。 性格も得意分野もバラバラですが、どの相棒との仕事にも忘れられ...

なぜ彼は繁華街を全力疾走したのか? “スピードスター”と呼ばれた警察官の誇りかつて警察官として勤務していた筆者。 さまざまな『相棒』たちと、数々の危ない現場をくぐり抜けてきました。 本記事では、筆者がさまざまな人とタッグを組んできた中で、ちょっと変わった相棒を紹介します。 繁華街交番の知られざる...






いろいろな人が集まる場所、交番。筆者が警察官として働いていた頃、本当に多くの人と出会いました。
警察に協力的な人もいれば、警察を毛嫌いしている人、世間話だけをしに来る人もいます。
そんな中で、今もふと思い出す『忘れられない人』がいます。悪人というわけではなく、むしろ少し変わった存在。
今回は、かつて勤務していた駅前交番で出会った名物おじさんの話をしたいと思います。
駅前交番で出会った風変わりな人
警察官になりたての頃、筆者は神奈川県内の駅前交番に勤務していました。
右も左も分からず、毎日が緊張の連続だったことを覚えています。
そんなある真冬の夜、22時頃のこと。突然、交番の中に怒声が響き渡りました。
「な、なめとんのかコラぁ。おれの言うことが聞けんのかぁ」
明らかに泥酔している様子の中年男性が、ふらつきながら入ってきたのです。
その声の大きさと勢いに思わず身構えました。勤務員は全員控室におり、筆者はとっさに対応の準備を開始。
すると、その様子を見た上司が落ち着いた口調でこう言ったのです。
「あぁ、〇〇さんが来たのか。もうそんな時間か」
その反応に、筆者は「え、知っているんですか?」と聞き返しました。
上司は特に驚く様子もなく、「うん、ほぼ毎日来るから」と答えました。
恐るおそる執務室へ出てみると、先ほどまで怒鳴っていたはずの男性は、一転して満面の笑みに…。
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「〇〇さんだよぉ」と名乗りながら、ピースサインを向けてきたのです。
つい数分前までの怒声がウソのようで、筆者は拍子抜けしながらも、この人がただ者ではないことを直感しました。
実は『常連』だった、名物のおじさん
その日以降、おじさんは交番でたびたび見かける存在になりました。
上司や先輩たちはみな、特に驚く様子もなく、自然に声をかけています。
上司が「〇〇さん、もう遅いから帰ったほうがいいですよ」と声をかけると、おじさんは「お、おまわりはんが頑張っとるのに、帰れるかぁ」と、相変わらずベロベロの様子で返答。
一見すると、ただの酔っ払いですが、不思議と場の空気が荒れることはないのです。
騒がしいのですが、罪を犯したり、トラブルを起こしたりする人ではありませんでした。
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通報が入り、筆者たちが交番を空けることになると、おじさんは急に真面目な表情になり、「気をつけろよ。行ってらっしゃい」と声をかけてくれます。
小一時間ほどして交番に戻ると、「お帰りぃ」と、まるで待っていたかのように迎えられ、勤務員全員で「まだいたのかよ!」とツッコんだことも。
おじさんとのやり取りの中で、自分が地域住民との架け橋である『お巡りさん』をやっているのだと、実感することもありました。
酔っていても、越えなかった一線
おじさんが、ただの酔っ払いではなかった理由は、人としての一線を守っていたから。
どれだけベロベロでも、暴れたり寝込んだりすることはありません。長居をしたとしても、最後は必ず自分の足で帰っていきます。
「そろそろ帰りましょう」と声をかければ、文句を言いながらも、最終的には立ち上がって帰っていきました。
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さらに印象的だったのが、ほかの来所者が現れた時。
相談や届出で一般の人が交番に入ってくると、おじさんは何も言わず、スッとその場を離れます。
うながしたわけでもないのに、他人の相談や事案対応を優先すべきだと、一線を引いていたのです。
騒がしくはありますが、邪魔はしない。距離感を間違えない。その絶妙な立ち位置を自然に保っていました。
今振り返ると、おじさんは交番の空気を読んでいたのだと思います。
新人だった筆者よりも「交番勤務とはなんたるか」を分かっていたのかもしれません。
いつの間にか、交番の守り神のような存在に
気がつけば、おじさんは交番にいるのが当たり前の存在に。
夜になると「そろそろ来る頃かな」と思い、見かけない日が続くと、どこか調子が狂うような感覚さえありました。
騒がしくて、少し変わっていて、決して模範的な来所者ではないかもしれません。
それでも筆者にとっては、新人で余裕のなかった頃、おじさんの何気ない一言や振る舞いに、救われることも…。
今振り返ると、不思議な安心感を与えてくれる『交番の守り神』のような存在でした。
今でも忘れられない存在に…
警察官として働いてた当時、本当に多くの人と出会いました。
事件やトラブルの当事者として記憶に残る人もいれば、特別な出来事はなくても、心に残り続ける人もいます。
今回紹介したおじさんは、ただ交番に通い、支離滅裂なことを言って帰っていくだけ。
それでも今もふと思い出すのは、新人だった筆者の心の拠り所であり、『交番の一員』のような唯一無二の存在だったからかもしれません。
[文・構成/りょうせい]