「うるさい!」 除夜の鐘への苦情、法的に中止できる?弁護士が解説
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大晦日の夜、しんしんと冷える空気の中に響き渡る、「ゴーン…」という鐘の音。
すぎゆく年を振り返り、新たな年を迎える準備をする、『除夜の鐘』は日本の美しい風物詩ですよね。
しかし近年、この伝統行事に「待った」の声がかかっています。
「うるさくて眠れない」
「子供が起きてしまう」
そんな近隣住民からの苦情を受け、『除夜の鐘』を中止したり、時間を昼間に変更したりする寺院が増えているというニュースを、耳にしたことがある人もいるでしょう。
「年に一度のことなのに…」とさびしく思う反面、生活スタイルの変化により、音に敏感にならざるを得ない事情も理解できる気がします。
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専門家「法的に止めるのは、極めてハードルが高いです」
『除夜の鐘』は法的に『騒音』にあたるのでしょうか。そして、苦情によって中止にさせることは可能なのでしょうか。
大阪府大阪市で、まこと法律事務所を運営する北村真一弁護士にうかがいました。
――『除夜の鐘』は、法的に「騒音」にあたるのでしょうか。
まず、騒音かどうかを判断する際には、単に音が大きいかどうかだけでなく、『受忍限度(じゅにんげんど)』という考え方が重要になります。
これは、『社会生活を送る上で、我慢すべき限度』のことです。
『除夜の鐘』の場合、深夜に大きな音が出ることは事実ですが、以下の理由から、受忍限度を超える違法な騒音とは認められにくい(我慢すべき範囲内である)と考えられます。
公益性・社会性:古くからの伝統行事であり、多くの人がその価値を認めている。
頻度・時間:年にたった一度、大晦日の深夜という限定的な時間に行われる。
――では、住民が「うるさいから止めて」と訴えても、勝てる見込みは薄いのですか。
裁判などで中止を求めても、認められる可能性は低いでしょう。
過去の判例を見ても、地域の伝統行事や祭りから出る音については、よほどの異常な音量や頻度でない限り、違法とは見なされない傾向にあります。
「年に一度の伝統行事なのだから、お互いに譲り合いましょう」という判断になるのが一般的だと考えます。
『裁判』ではなく『話し合い』で解決した事例も
裁判での決着は難しいものの、住民と寺院の『話し合い』によって、状況が変わったケースは存在します。
東京都小金井市の住宅街にある『千手院』では、近隣住民が裁判所に『民事調停』を申し立てました。
これは、勝ち負けを決める裁判とは異なり、裁判所の仲介のもとで話し合いによる解決を目指すものです。
この調停の結果、防音パネルを設置することや、鐘をつく回数を減らすなどの条件が定められましたが、最終的に『千手院』は、『除夜の鐘』自体を自粛するという決断を下しました。
法的に強制されたわけではなくても、近隣との関係やトラブルの長期化を懸念し、寺院側が苦渋の決断をするケースもあるという現実を示しています。
伝統と生活、どちらも大切だから
法的には「中止させるのは難しい」というのが結論ですが、実際には多くの寺院が、住民の声に耳を傾け、自発的に変化を選んでいます。
最近では、大晦日の昼間や夕方に鐘をつく『除夜の鐘』ならぬ『除夕(じょせき)の鐘』を実施する寺院も増えているそうです。
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これなら、騒音問題もクリアでき、参拝客も寒さに震えることなく参加できますよね。
「伝統だから我慢しろ」と押しつけるのでもなく、「うるさいから止めろ」と切り捨てるのでもない。
寺院側の歩み寄りと、住民側の寛容さ。その両方があった時、形は少し変わったとしても、年越しの温かい風景は守られていくのかもしれません。
鐘の音に耳を傾けながら、相手を思いやる『優しい心』で新年を迎えたいものですね。
[文・取材/ことのは 構成/grape編集部]