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テキストがボロボロになるまで日本語を学んだ、アフリカ・マリの青年が教えてくれたこと

By - 吉元 由美  公開:  更新:

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ボロボロの本の写真
吉元由美の写真

作詞家

吉元由美

作詞家、作家。作詞家として1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛けた。

吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

マリの青年の心を動かした『日本語』

大学生のとき、NHKラジオの国際局報道部でアルバイトをしていました。

通信社から入ってくるニュースを日本語放送デスクに渡し、整えられたニュース原稿をスタジオに持っていく。

今では考えられないようなアナログな業務でしたが、メディアの世界の一端を体験でき、いい社会勉強になりました。

ラジオの原稿を渡す写真

この日本語放送を世界のどこかで聴いている人たちがいる。

日本から遠く離れた場所で、どんなふうに聴かれているのでしょうか。

朝食の準備をしながら、仕事の合間に、ラジオに耳を傾けている人たちがいる。

母国に心を寄せるひとときになるのかなあと、報道部に流れてくるニュースを聴きながら思いを馳せたものでした。

テーブルの上のラジオの写真

この日本語放送をきっかけに日本語を習得し、日本語に関わる仕事に就いたアフリカ、マリの青年の話がNHKの番組で取り上げられたことがありました。

日本語の短波放送とテキストだけで日本語を習得し、仕事に生かしているアフリカのマリの青年を紹介していました。

ラジオから、たまたま聴いたことのない言語が流れてきて、興味を引いたのでしょうか。

食い入るようにラジオを聴いている青年の姿が目に浮かびます。

ラジオの写真

生きていくために必死に学ぶ。よりよい仕事に就くために一生懸命取り組む。自分や家族のために、国を発展させるために一生懸命勉強する。

学ぶとは、生きていくことであり、生きるとは学び続けるということなのですね。

先日、ある日本語教育関連の会議で、子どもたちの学力低下が著しいことが話題になりました。

特に国語、読解の力が落ちているとのことでした。

これは、単に言葉をコミュニケーションツールとして捉えているからなのかもしれません。

通じたらいい。読めたらいい。その言葉の奥深くにある『人間』というものへの洞察までにはなかなか至らないのでしょう。

親子の写真

小学生のときに、なぜ一生懸命勉強しなくてはいけないのかと父に聞いたことがありました。

「一生懸命勉強すると、頑張る力がつく」

という父の言葉をよく覚えています。

頑張る力。勉強にかぎらず、スポーツでも、仕事でも、自分を高めるために、葛藤を乗り越えるために。人生、どこかの場面で『頑張り時』がありますよね。

やっと手に入れることができたトランジスタラジオのチューンを合わせていたら、聴いたことのない言葉の放送が流れてきた。

それが遠い日本からの放送と知って毎日聞きはじめ、マリの青年は胸が躍るのです。

村からバスを乗り継いで、郵便局から送金してテキストを取り寄せる。

そしてそのテキストがぼろぼろになるまで勉強し、青年は日本語で身を立てるまでになったのです。

ここに、『学ぶこと』の原点があるような気がします。

あのマリの青年はどうしているでしょうか。

『一生懸命』ということから遠くなった自分を感じたとき、この青年のことを思い出したのでした。

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※記事中の写真はすべてイメージ


[文/吉元由美 構成/grape編集部]

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