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大嫌いだった伯母 その悪口をいった時、母が涙を浮かべながら私を叩いたわけ【grape Award 2019 入賞作品】

By - grape編集部  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

grapeでは2019年にエッセイコンテスト『grape Award 2019』を開催。『心に響く』をテーマにした多くのエッセイが集まりました。

今回はそんな心に響くエッセイの中から、優秀賞に選ばれた『オバちゃん おおきに』をご紹介します。

オバちゃん おおきに

蝉の自己主張が身辺を覆う中、今年も菩提寺で手を合わせ、命を繋いでくれた先祖に感謝の念を送る。

私はこの時、いつもある人物の姿を想い礼拝する。それは私の伯母である。

幼少の頃から何かと接触はあったが、当時の私はこの伯母が大嫌いだった。母の姉であったが、同じ姉妹でもその姿は対照的だった。

伯母はいつも派手な洋服で着飾っていた。

イヤリングやネックレスがキラキラと光り、冬などミンクのストールを巻き、いつも香水の匂いをプンプンとさせていた。

片や私の母はというと、ほとんどが割烹着姿で、そこに醤油やソースや、カレーのタレが弾き染みとなり、胡麻やネギなどをくっつけている。

伯母は時々ふらっとやってきた。そして私を見ると、すぐに抱きつこうとしてくるのだ。

「くさーい!来るな、あっちに行け!」
幼かった私は、伯母のキツイ香水の匂いに辟易して叫ぶ。

伯母は「えーやんかぁ。オバちゃんにギュッとさせてぇなぁ、勇ちゃん」と悲しそうな顔をする。

「ほな、お小遣いちょうだいな」
そう言うと伯母は必ず百円くれた。当時、私にとって百円は大金だった。いわば、お小遣いだけが目当ての接触であった。

私が伯母を気にくわなかったのは、家に上がり込んで何やら話している時、母がペコペコと頭を下げていることだ。

伯母が偉そうに見え、母がなんともみすぼらしく映り、それが私には歯がゆかった。何回か伯母が見知らぬ男性と一緒に歩いているのを見かけたが、ころころとその顔ぶれが変わった。

私が中学三年生になったばかりの頃、伯母が倒れて入院した。
私の両親は心配そうにしていた、特に母は泣きそうな顔をしていた。

伯母が好きでなかった私は
「アリとキリギリスやな母ちゃん。ケバい格好でふらふらしとったもんと、まじめに暮らしたもんの末路や。バチや、バチがあたったんや」

おどけてそう言うと、母の顔が急変した。

眉間にシワを寄せて目をつり上げたかと思うと
「アホ!なんてこと言うんや。あのオバちゃんがおらんかったら、家族そろってあの世ゆきやったんや」
と怒鳴り、パシン!と頭を叩かれた。

しだいに悲しそうな顔になって涙を浮かべはじめた。

「もうあんたにも話してええやろな」
と前置きしてから、次のような話を初めて打ち明けられた。

私が産まれて間もなく、父の仕事がうまくいかず、病弱だった母はパートにも就けなかったという。

「このままでは一家心中や…」という物騒な言葉がついて出た頃、伯母がメリヤス工場で働きながら夜の仕事も始め、朝から晩まで身を粉にして働き、定期的に我が家にやってきては、お金を送り続けてくれていたのだ。

商売柄、洋服姿が主であったが、本当は着物が似合う質素な人であったこと。

我が家とのやりとりは他言無用だと、伯母から口止めされていたこと。

話を聞かされているうちに、私は涙があふれてきてどうしようもなかった。

ある日、一時的に退院を許された伯母が着物姿でふらっとやってきた。

その日は泊まっていくのだと母から聞かされた。私はある意味、懺悔の気持ちで伯母の肩を揉ませてもらった。

「オバちゃん、おおきに」

と心の中で手を合わしながら痩せ細った肩を揉んでいると、突然伯母が両手で顔を覆い「勇ちゃんがマッサージしてくれてる、勇ちゃんがマッサージしてくれてる」と言って嗚咽した。

その様子を横で見ていた母が微笑みながら泣いていた。

伯母は何度も何度も「ありがとうね」と言った。

私は心のなかで「こちらこそ、ありがとうございました」と返した。

それから三ヶ月ほどして伯母は亡くなった。
生涯独り身の伯母は、我が家を救うための半生だった。

私はお墓の前で汗を拭い「オバちゃん、また来ます」と約束した。

grape Award 2019 優秀賞
タイトル:『オバちゃん おおきに』
作者:高槻 勇治

『心に響く』エッセイコンテスト『grape Award 2019』

grapeでは2017年よりエッセイコンテスト『grape Award』を開催しています。2019年には13歳から83歳までの幅広い年齢層から、567本ものエッセイが集まりました。

その中から最優秀賞・1作品、タカラレーベン賞・1作品、優秀賞・2作品が選ばれました。

入選したその他の作品は、こちらからご確認いただけます。

ラジオで受賞作品を、音楽とともに

2019年12月30日16時30分より、ラジオ番組『grape Award~心に響くエッセイ2019~』がニッポン放送でオンエアされました。

『grape Award 2019』の受賞作品を、人気アナウンサーが作品のイメージに合う音楽が流れる中、朗読。

また、ニッポン放送で番組放送中の清水ミチコさん、原田龍二さん、安東弘樹さんといった豪華なゲストが出演しました。

放送の様子はradikoから、お聴きください。

radkoで『grape Award~心に響くエッセイ2019~』を聴いてみる。

※2020年1月6日までお聴きいただけます。

「目で読む」のとはまた違う感動が得られる『耳で聴くエッセイ』をぜひお楽しみください。


[構成/grape編集部]

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