雨に打たれながら必死で走る親子 それに気付いたバスの運転手が…? By - grape編集部 公開:2020-09-12 更新:2020-09-14 grape Awardgrape Award 2020grape Award エッセイエッセイバス運転手 Share Post LINE はてな コメント ※写真はイメージ 2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。 『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。 『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集! 今年は2つのテーマから選べる 今回は、応募作品の中から『吹き抜ける優しさ~バス物語~』をご紹介します。 新しい文化、新しい土地、新しい学校。 引っ越してきて2週間、知り合いのいないこの街で覚えたのは近所のスーパーと学校までの道程のみ。 右も左もわからない状況下で、小学4年生と1年生の息子の手を繋いで丘の頂上にある小学校への道程が時に遠くに感じます。 そして明日は引っ越してから初めての雨予報。 「ママ、明日は雨?学校に歩いていくの?」 私の不安を察したのか子供達が私の顔を覗き込んで言います。 「こんな雨じゃ、学校に着いたらびしゃ濡れだよね。明日はバスに乗って行ってみよう。」 その言葉に嬉しそうな子供達の顔。 子供を寝かした後、バスの経路を調べてみると、我が家の裏通りから学校の前まで行くバスを発見!良かった! 翌日、叩きつける激しい雨の中、遅れまいと早く家を出てバス停に向かいます。子供達の靴は既に雨に濡れてびしゃびしゃ。 「ママ、待って。そんなに早く歩けないよ。」 「頑張れ、頑張れ!早くしないとバス行っちゃうよ!次のバスだと学校に遅れちゃうよ。」 その瞬間遠くに見えたのです。私達が乗るべきバスが丁度バス停を出発しようと動き始めたのを。 「ああ、待って!」 手を精一杯両手を振りながらバスに向かって全力疾走すると、その姿に気が付いてバスはその場で止まってくれました。 「サンキュー ベリー マッチ!」 息を切らせながら3人で転がるようにバスに乗り込むと、バスの運転手さんがにっこり笑ってこっちを見ていいました。 「いい走りでしたよ!あなたのこと置いていきませんよ。大丈夫ですよ。」っと。 運転手の笑顔が心の奥に染み入って、温かいモノが流れていくのがわかりました。 そしてその日の午後、学校終了時間に合わせて私はまた学校に向かい、今度は子供達と一緒に帰りのバスを待ちます。(子供だけでは帰れない規則です。) 「あ、来たよ!」 バスに乗りこむと運転席に座っていたのは朝の運転手さん! 「学校はどうだった?楽しかった?」 子供達は嬉しそうに、そして、恥ずかしそうに運転手さんに向かって大きく頷きました。 「朝の運転手さんだ、優しいね。」 耳元で囁く息子。そして続けます。今日は宿題で本を探すために図書館に行きたいのだと。 そこで、バスの揺れに身を委ねながら、私は席を立ち運転手さんのところに行きました。私達は最近越してきたばかりだということ、今から図書館に行きたいのだけれど、最寄りのバス停はどこなのかわからないので助けて欲しいこと。 すると、その運転手さん、何と他のお客さんもいたのにもかかわらず、バス停のないところでバスを停車させてくれたのです。 そしてこう言いました。 「ここが一番近いですよ。降りたら左に向かって歩いて行ってください!頑張って!」と。 「え!」 私の目が点。バス停もないところで降ろしてくれただなんて。そして他の2,3人のお客さんも何も言わずにそうすることを許可してくれただなんて。 またまた心の芯が熱くなりました。 「いい一日をね!またね!勉強頑張ってね!」 そういって運転手さんは子供達の頭を撫でてくれました。 子供達は覚えたてのサンキューと満面の笑顔で駆け足でバスを降りました。 私は他の乗客の方々に向かって大きく一礼し、再度運転手さんに心からの有難うを伝え子供に続いてバスを降りました。 バスを降りると運転席から、運転手さんが図書館のある方を指さして信号をわたるようにジェスチャーをしてくれているのが見えます。 私達は両手の親指を立てて、大きく頭を下げてバスが小さくなるまで見送りました。 初めての街で吹き抜けたあの優しい風が今でも時々心の中でピカッと光ります。 あれから6年。私が受けた優しさを今度は私がこの街に新しく来る方々に紡いでいきたいと思います。 grape Award 2020 応募作品 テーマ:『心に響くエッセイ』 タイトル:『吹き抜ける優しさ~バス物語~』 作者名:ひでよ エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定! 2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。 さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。 心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに! 『grape Award 2020』詳細はこちら [構成/grape編集部] 『日本語なのに読めない』貼り紙 内容が?「もはや外国語」「なんて?」旅行中に立ち寄った温泉。貼り紙の内容に首を傾げた理由が? レジ店員「そのカバン…」 レジ店員が客に声をかけたワケが?「これは声かけちゃう」「最近、自信喪失していて、今日もとぼとぼと帰路についていたんだけど…」 Share Post LINE はてな コメント
2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。
『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。
『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集! 今年は2つのテーマから選べる
今回は、応募作品の中から『吹き抜ける優しさ~バス物語~』をご紹介します。
新しい文化、新しい土地、新しい学校。
引っ越してきて2週間、知り合いのいないこの街で覚えたのは近所のスーパーと学校までの道程のみ。
右も左もわからない状況下で、小学4年生と1年生の息子の手を繋いで丘の頂上にある小学校への道程が時に遠くに感じます。
そして明日は引っ越してから初めての雨予報。
「ママ、明日は雨?学校に歩いていくの?」
私の不安を察したのか子供達が私の顔を覗き込んで言います。
「こんな雨じゃ、学校に着いたらびしゃ濡れだよね。明日はバスに乗って行ってみよう。」
その言葉に嬉しそうな子供達の顔。
子供を寝かした後、バスの経路を調べてみると、我が家の裏通りから学校の前まで行くバスを発見!良かった!
翌日、叩きつける激しい雨の中、遅れまいと早く家を出てバス停に向かいます。子供達の靴は既に雨に濡れてびしゃびしゃ。
「ママ、待って。そんなに早く歩けないよ。」
「頑張れ、頑張れ!早くしないとバス行っちゃうよ!次のバスだと学校に遅れちゃうよ。」
その瞬間遠くに見えたのです。私達が乗るべきバスが丁度バス停を出発しようと動き始めたのを。
「ああ、待って!」
手を精一杯両手を振りながらバスに向かって全力疾走すると、その姿に気が付いてバスはその場で止まってくれました。
「サンキュー ベリー マッチ!」
息を切らせながら3人で転がるようにバスに乗り込むと、バスの運転手さんがにっこり笑ってこっちを見ていいました。
「いい走りでしたよ!あなたのこと置いていきませんよ。大丈夫ですよ。」っと。
運転手の笑顔が心の奥に染み入って、温かいモノが流れていくのがわかりました。
そしてその日の午後、学校終了時間に合わせて私はまた学校に向かい、今度は子供達と一緒に帰りのバスを待ちます。(子供だけでは帰れない規則です。)
「あ、来たよ!」
バスに乗りこむと運転席に座っていたのは朝の運転手さん!
「学校はどうだった?楽しかった?」
子供達は嬉しそうに、そして、恥ずかしそうに運転手さんに向かって大きく頷きました。
「朝の運転手さんだ、優しいね。」
耳元で囁く息子。そして続けます。今日は宿題で本を探すために図書館に行きたいのだと。
そこで、バスの揺れに身を委ねながら、私は席を立ち運転手さんのところに行きました。私達は最近越してきたばかりだということ、今から図書館に行きたいのだけれど、最寄りのバス停はどこなのかわからないので助けて欲しいこと。
すると、その運転手さん、何と他のお客さんもいたのにもかかわらず、バス停のないところでバスを停車させてくれたのです。 そしてこう言いました。
「ここが一番近いですよ。降りたら左に向かって歩いて行ってください!頑張って!」と。
「え!」
私の目が点。バス停もないところで降ろしてくれただなんて。そして他の2,3人のお客さんも何も言わずにそうすることを許可してくれただなんて。
またまた心の芯が熱くなりました。
「いい一日をね!またね!勉強頑張ってね!」
そういって運転手さんは子供達の頭を撫でてくれました。
子供達は覚えたてのサンキューと満面の笑顔で駆け足でバスを降りました。
私は他の乗客の方々に向かって大きく一礼し、再度運転手さんに心からの有難うを伝え子供に続いてバスを降りました。
バスを降りると運転席から、運転手さんが図書館のある方を指さして信号をわたるようにジェスチャーをしてくれているのが見えます。
私達は両手の親指を立てて、大きく頭を下げてバスが小さくなるまで見送りました。
初めての街で吹き抜けたあの優しい風が今でも時々心の中でピカッと光ります。
あれから6年。私が受けた優しさを今度は私がこの街に新しく来る方々に紡いでいきたいと思います。
grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響くエッセイ』
タイトル:『吹き抜ける優しさ~バス物語~』
作者名:ひでよ
エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!
2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。
さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。
心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!
『grape Award 2020』詳細はこちら
[構成/grape編集部]